竜の群れ
リンの日記_七月十三日(日)
まさかドラゴンを倒しちゃうとは…。ところが私が魔物のドロップアイテムをアセロラのバッグに押込んでいると、ラコルンが告げた。
「でもこのドラゴン、一番弱い奴っすね」
「…弱い?」
「コイツの正式名称はセーフ・ドラン。深緑色の皮膚と穏やかな気性が特徴っす」
「ダウト、穏やかじゃなかっただろ」
「コイツが成長したのが、ワーン・ドラン。黄土色の肌で、やや攻撃的な性格っす。で、その更に上がダンガ―・ドラン。赤い皮膚で、攻撃的なドラゴン。いわゆる〝赤竜〟と呼ばれる種類っすね」
「三段目の一番下って…こと?」
「それだけじゃないっす。その竜達のトップに立つのが、ボスモンスターのヴレア・ドラゴシス。多分さっきの竜の三倍近いサイズっすよ」
「絶対会いたくない。これ以上ダンジョンの先に進むのは止めましょう」
「え、でも…」
ラコランが何か言いかけた時だ。少し先で遠吠えのような音がした。これは…ドラゴン? 私達は慌てて声の方へ走り、そして目をひん剥いた。
――ドラゴンの…群れだ。
二キロ近く先、十数体のドラゴンがゆっくりと飛んでいる。空気で淡くなるほど遠くなのに、その姿はハッキリと認識できる。どこに向かっているのだろうか。その巨大な佇まいは水中の鯨みたいだ。多くの人間は、一生のうちで決して見ないような光景。そう思うと――
「正直、壮観だ」
「不謹慎だけど、見れてよかったかも…っす」
私達は大自然の雄大さに心打たれていた。お婆ちゃんもこんな光景を何度も見て来たのだろう。ところが、私は小さな違和感に気がついた。東へ向かって飛んでいた筈のドラゴンたち。ところが数分経った今、奴らはこちらを向いているではないか。
「まさかアイツら、こっちの方向に飛んできてない?」
ラコルンは何も言わなかった。
――あばばばばば!?
大自然の雄大さに心打たれている場合じゃない! そういうのは他人事だから感動できるのだ。胸が苦しいのは感動じゃなくて、普通に恐怖。
「てか、なんで強力な魔物がこんな辺境の地に!?」
私の言葉を聞いた彼女は、静かな声で告げた。
「それっすけど…実はこのダンジョン、前も後ろもないっす。砂漠エリア、遺跡エリアみたいな複数のエリアからできていて、ボス魔物すら各エリアを回遊しているんす」
「あ、安全地帯はないってこと!?」
「っす」
マジかよ。てか、今から逃げても絶対に間に合わない。台風が追ってきているようなもんだ。私達はとにかく、風車小屋の中に避難した。あわよくば廃村を通り過ぎるかもしれない。私達は奥歯をガタガタ言わせながら、奴らが去ることを祈った。そして十分後――
「行った?」
「行った……すね」
幸運なことに、ドラゴン御一行は廃村を通過した。群れの一匹が地面に降り立った時はもうダメかと思ったけど、結局ソイツもすぐに飛んでいった。脅かせやがって、クソドラゴンめ。とにかくこのエリアの被害状況を確認し、移動するか決めよう。ところが廃村の入り口付近まで戻ってきて、ラコルンが悲鳴を上げた。
「り、リン氏!!!」
「なに…?」
彼女の指さす方向を見て、私も頭が真っ白になる。そこにあったのは私が拠点にしていた廃家。最初にセーフ・ドランに破壊されたから、崩れていることには驚かない。だがしかし、その家には見覚えのない大穴が空いている。私達はこの廃家に気絶した友人を隠しておいたはず。
――あ、アセロラ!?
廃家に飛び込む。蛇の丸焼きも、中途半端な性能の私のバッグもちゃんとそこにある。が、肝心のアセロラがいない。そして壁際にはチビドラゴン――ラムスが倒れていた。
「ちょ、アンタ! 大丈夫!?」
「み、見るからに大丈夫じゃねえだろ」
「ちょっとアンタに聞きたいんだけど…」
「すまん、さらわれた」
そう言ってチビドラゴンは小さな拳を握りしめた。
「まさか…戦ったの?」
「別に、ちょっと囮になろうとしただけだよ」
「ありがと、少し休んでて」
私は自分のバッグにラムスを詰めると、それをアセロラのバッグに詰めた。そしてラコルンの方へと向き直る。
「私はアセロラを助けるのに、竜の群れを追う。ラコルンは脚を怪我してるから――」
「絨毯もナシにどうやって追いかけるつもりっすか。自分もお供するっすよ」
「あ、ありがとう…」
私達はドラゴンを追うため、魔法の絨毯に飛び乗った。この魔法道具…すでにボロボロだけど、大丈夫だろうか。もう少しだけ耐えてくれ…。こうして私達は廃村エリアを後にしたのだった。
ちなみに膨大な数の人間がこのダンジョンに幽閉されているはずだが…今のところラコルンとアセロラにしか会っていない。まさか皆、やられてしまったのだろうか。この事実が私たちの不安を繰り返し煽っている。




