234_四桁のパスワード
「そうだな…ここに来た一番の目的は、君を救出することだ」
――こ、交渉成功である!
私はやり遂げたのだ…。既に私の呼吸は上がり切っていた。ブリックは小さく呟くと、魔物に向けてトンファーを構える。その姿を見て、肩の重荷がボロボロと崩れていくのを感じた。
「リンちゃん、マジでありがと~」
タランチは私の肩に手を添えると、ボスエリアの入り口付近で待機するよう促してくれた。もう疲れた…帰って寝たい。
ブリックとタランチはそれぞれ、魔物の左右に散った。ブリックが大きな鋏を抑えて、タランチは敵の動きを攪乱する。そしてソルはアロエスの隣に並び立った。
「盗賊よ、あの魔物との縁は深かったのか?」
「仕事でつるんでいるアンタらよりはね」
「そうか…」
「で、アタイは何をすればいいのかしら?」
アロエスの言葉に対して、ソルは宙に浮かぶ、大きな宝箱を指さす。あそこにはミミックの核である宝石(恐らくミスト自身)が隠れていた。
「あの宝箱を開けてほしい」
「アタイの専門は宝箱の〝開錠〟さ。宝箱の扱いならお安い御用、と言いたいところだけど…」
「む?」
彼女の言いたいことは分かる。あの宝箱の外側には球状結界が張ってあった。あれを壊さない限り、そもそも宝箱に振れることすらできない。結界は六角形が集まったハニカム構造となっており、私が使っている魔法より頑丈そう。ただし中央には鍵のような紋章が形成されており、入力フォームのような空欄があった。
――あの結界魔法、鍵がついているタイプだ。
あそこに正しいパスワードを打てば、結界を解除できる…はず。ダンジョンでこういった仕掛けは珍しくない。が、魔物の結界に鍵が存在するパターンは、初めて見た。あれは何のために付いているのだろう(利用しない手はないが…)。一方のソルは入力欄を前に首を傾げる。
「パスワードか…心当たりはあるのか?」
「今まで魔導書や魔法の管理はミストに一任していたから…彼がどんなパスワードを設定するのかは検討がつかないわ。あれは四桁の数字を入れるみたいだけど」
四桁か…セキュリティの意識が高いのか、低いのかよく分からない魔物だ。するとソルはこちらを向いた。
「リン、魔法陣の専門家として、なにか意見はあるか! どんな些細なことでもいい!!」
「い、意見ですか…?」
突然そんなものを求められても…。私は咄嗟に思いついたことを口に出す。
「た、例えば誕生日とか…パスワードにする人いますよね…」
「よし、可能性のありそうなパスワードを片っ端からぶち込む!」
二人は同時に散った。ソルは脚を妨害し、アロエスはミミックに向けて走り出す。ところが上空から魔物の声が響いた。その声はだんだんと人のモノから遠ざかりつつある。
「調子にのるn?a???yo、ミミック・サモnnnn…」
【ミミック・サモン_ミミックの召喚魔法】
上空に複数の魔法陣が出現、そこから次々と宝箱が落ちてきた。そこまで大きくはなく、幅は一メートルもないだろう。
「た、宝箱…!?」
咄嗟に反応するアロエス。そんなに好きなの…? ところが彼女の目の前に落ちたそれは、突然爆発した。大きな破裂音が響き渡るが、彼女はギリギリで爆炎を回避する。
――!?
ミミックだ。ミミックとは、宝箱などになりすまして人を襲う魔物を指す。魔法攻撃、甲殻類の鋏、トラバサミなど…多種多様なミミックが自警団達を襲い、対応の難易度は跳ね上がる。さらにミストはアロエスに狙いを定め、巨大な脚を振り上げた。
「アロエス、上!」
ところが大きなミミックはタランチの綱糸トラップに脚を取られる。
「ちゃんと足元見ないと危ないですよ~。ギャルなら目はパッチリ開いておかないと!」
「く、くそ…」
糸はすぐに引きちぎられるが、それでもアロエスが一手速い。彼女は球状結界に手を触れて魔力を放出。念じた数字がフォーム上に浮かび上がった。恐らくミスト自身の誕生日なのだろう。
「〝0419〟エンター…」
――どうだ…?
しかし結界は赤く光りを放ち、そのままアロエスを弾き飛ばす。
「アロエス!」
「大丈夫、大した衝撃じゃない」
一回目の挑戦は失敗に終わった。ところが、悪いニュースは更に続く。
結界が元の色に戻ると、その中央に大きく「2」の文字が浮かび上がった。有名な古代語だ。あの数字はどういう意味だろうか。下部には数字の説明と思われる文章も表示されている。
「残?りの挑戦k??u?を表?r」
文字化けを起こしている。ミストの〝人間としての要素〟が消えつつあるということだろうか。だが残された文字から、おおよその意味を察することが出来た。
――パスワードに挑戦できる回数は…残り二回。




