235_残りの試行回数
「残?りの挑戦k??u?を表?r」
文字化けを起こしている。ミストの〝人間としての要素〟が消えつつあるということだろうか。だが残された文字から、おおよその意味を察することが出来た。
――パスワードに挑戦できる回数は…残り二回。
カウントがゼロになるとどうなるのだろう。相手は魔物だから、爆発したり、とんでもない攻撃が降ってくる可能性もある。しかしそれでもアロエスが怯む様子はない。
「リン、他にどんなパスワードが考えられる?」
「む、無理です! 残り二回じゃ、当たりっこない」
「アタイも考える。技術屋は打たれ強くて、なんぼだろ?」
技術屋…アロエスにそう言われたら断れない。私は必死に頭を回転させる。
「例えばですけど…ミストって大雑把な人でした? パスワードを面倒くさがる人なら1111とかにするかなって…」
「適当なところはあるけど…そこまでじゃないわね。魔導書や魔法陣のパスワードは忘れるのが怖いからって、一冊のノートにまとめていたわ」
「…そうですか」
「じゃあ、アロエスの誕生日…あと盗賊団の結成日とかも」
「アタイの誕生日か…。ちょっと試してくる」
――え、決断早っ。
アロエスは攻撃を掻い潜り再度、敵の懐へと侵入。巨大な鋏が飛んでくるが、今度はソルが弾き返した。頑丈なガントレットが、敵の攻撃をいなす。もちろん武器を操る彼の肉体も只事じゃない。彼女は再び結界に手を当てると、パスワードを入力した。
「0222、エンター」
誕生日、猫の日なんだ。しかし、このパスワードもハズレだった。再び結界が赤く光る。そして衝撃波がアロエスの身体を弾き飛ばす。
「ちっ! アイツはそんなエモーショナルな男じゃなかったわね!!」
アロエスは動揺、というか怒っている、かも? そんな彼女と対照的に私は困り果てていた。これ以上のアイデアが出てこない。そもそも何のヒントもなく、ミストの決めた四桁を当てるなんて、マジックみたいなもんだ。完全な乱数の可能性すらある。頭を抱えていると、ふと四月上旬の記憶が蘇ってきた。
あれは初めてヴレア・ボールを改造した時だ。私は自分の失敗から、報連相の重要性を学んだ。そしてアキニレから「十五分考えてわからなければ、先輩に相談する」というルールをゲット。ところが――
「オメエ、そんなバカ丸出しの状態で聞きにくるんじゃねえ!」
ガスタの怒鳴り声が響く。私はすぐに弁解を試みた。
「で、でも…十五分考えて分からなかったら、質問すべきだってアキニレが…」
「その十五分の使い方が下手なんだよ。お前が足りない頭で十五分間、ヒーヒー言ったところで無駄だろ!? 無駄な十五分!」
「は、はい」
この男はオブラートという概念を知らない。
「ならその十五分で参考書を開け。調査をしろ。分からない→聞くじゃない! 分からない→調査→情報を持った上で聞け!!」
な、なるほど…言わんとしていることは、分かる。
「は、はい!!」
だが勢いよく返事したものの、これがなかなか難しい。今は調査する箇所や、深さが足らなくて怒られている…。一人前の職人どころか「新人としての適切な振る舞い」を身に着ける事すら簡単じゃない。だが、一先ずそれは置いておこう。そうだ、分からなくなったら、まず情報を集めなくては…。
「アロエス、ミストについて教えてください」
「ミストの何を!?」
「えっと、なんだろ…」
戦闘スタイルは聞いても意味ないし、普段使っているパスワードは、分からないんだよな…。あ、そういえば日記つけているって言っていたな。
「彼の日記ってどこですか?」
「日記? うちのノッポ幹部が大容量の圧縮魔法カバンを持ってる…多分その中ね」
ノッポ幹部…ソルと戦っていた奴だ。私は急いで幹部――クラッカの元へと走る。彼は気を失っていたが、肩にかけたカバンはすぐに分かった。カバンをひっくり返すと、色々なアイテムが飛び出してくる。魔物のドロップアイテムや、網の武器、工具などなど。その中から麻の袋が出てきた。大小様々な書類が乱雑に詰め込まれている。その中に分厚いノートを見つけた。
――これか!?
ページをめくると、びっしりと文字が記されていた。各ページの左上には日付が記されている。間違いない、ミストの日記帳だ。だがその内容は日記というより、業務記録に近い。受けた依頼の記録や、お金の増減が詳細に記されていた。最近のページをパラパラとめくる。するとここ数日の彼の行動を知ることが出来た。




