233_リンvsブリック
――ど、どうする!?
横の繋がりを重んじるソルと、縦の繋がりを重んじるブリック。正反対の二人だが、まさかこんなところでも主張が食い違うとは。そうこうしている間にも、ミミックの親玉は私達を潰そうと攻撃をしかけてくる。
私、個人としてはブリックに協力してほしい。何故ならこのままじゃアロエスがやられてしまう。自警団に倒された幹部達は壁際で意識を失っており、自警団が撤退しても、彼女はここで戦い続けるだろう。
「ちなみにリンちゃんはどう思います~?」
――え、ここで私!?
私はビックリしてタランチの方を向いた。本来、自警団が私に意見を求めることなんてないはず。だが彼女の目配せによって、私はその意図を理解した。先人の定めたルールを順守するブリック、彼を説得するのは至難の業だ。しかし被害者である私の声なら通るかもしれない。私は咄嗟に声を出した。
「わ、私はブリック副課長に協力してほしいです。だってアロ――」
そこまで口にして、ブリックと視線が交差する。その険しい表情を見て、私は一度言葉を飲み込んだ。これは鳥人――ブリックの鋭い視線が怖かったからではない。
――アロエスを助けたいから…という理由で彼を動かせるのだろうか。
私がそう思ったのは、とある業務を思い出したからだ。あれはユニの案件。デザイナーのモスと、アキニレの主張がはっきりと対立した。「舞台の大道具に巨大な水製ドラゴンを作りたい」と話すモス。しかし彼の提案は技術的に無理があった。そこでアキニレは「魔法陣を一枚ではなく三枚用意し、処理を分散する方法」を提案しつつ、他魔法陣の製造を減らすよう交渉。最終的に難局を切り抜けたのだ(まあ徹夜はしたが…)。
交渉前日、アキニレは周到に準備を行っていた。単純に「技術的に難しいから、こっちの案でいきます」という説明じゃダメなのだろうか。疑問に思った私アキニレに尋ねてみた。
「俺らが主張したい内容と、相手を説得し得るセリフが同じとは限らないからね~」
「えっと、というと…?」
「相手からすれば『難しいか否か』はどうでもいい。大事なのは『製造が間に合うか否か』だから。例えばリンが昼休みの終了ギリギリでレストランに入ったとしよう。やっぱり気になるのは、『料理がいつ出てくるか』だと思うんだよね」
「な、なるほど…」
「だからそれを説明するために情報を集め、整理しておく必要がある。これは実際の開発と同じくらい大切な仕事だよ」
実際、仕事熱心なモスを説得するには、正確なデータが必要不可欠だった。あそこでいくら「製造の難しさ」を語っても、それは言い訳にしか聞こえなかったかも。そして今、私が直面している問題もそうだ。
私はアロエスを助けてほしいから、自警団にも協力してほしい。だがブリックは加害者の安全より掟を優先する人物だ。この主張は効果的ではない。
――どうすればこの男を動かすことができるのだろうか。
ソルやブリックはそれぞれの正義を持っている。でもそれを私が語っても薄っぺらい…。〝私〟はどうすべきだろうか。待てよ、そもそもタランチが私をチョイスしたのは、私が今回の被害者だからだよな。それを再認識した時、私が話すべき内容は自然と定まった。
「わ、私はブリックに協力してほしいです。なぜなら――」
ブリックの視線が改めて私を捉える。しかし彼が口を開く素振りはないので、私は言葉を続けた。
「そっちの方が、自分が助かる確率が高そうだからですっ。自警団の方々が協力してくれた方が心強いと思いました!」
私は必死に主張した。「高そう」ってなんだよ…という感じではある。だがここは感情論でゴリ押すしかない。思いついたことを次々と口に出す!
「ほ、ほら横の繋がりを重んじる課長と、縦の繋がりを重んじる副課長が揃えば…すごい強固っていうか。上質な布! って感じがしますし…」
「上質な布…か」
ソルが呟く。例えは上手くないので、あまり引っかからないでほしい。だが未だにブリックの反応は芳しくなかった。
――こ、怖い…!
でも今更引くわけにはいかない。仕方ないので、私は切り札を使うことにした。
「そ、それに、副課長は昨日、掟を優先して、私を一人で逃がしましたよね。それで私はアロエスに捕まった訳ですし…」
彼は盗賊四人に囲まれた際に「灰翼之法度――第三条より敵前逃亡は禁じられている」とか言って一人で立ち向かっていった。その結果、私達は盗賊団に出し抜かれたのだ(何が正しい判断だったのか、検証する術はないが)。だから私からすると、掟に固執されるのは怖い。
――ここで初めてブリックの目が泳いだ。
い、いけるかも。私を守ろうとしてくれた人を責めるのは、とても気が引ける。でも、今はアロエスの、人命のためだ。私は心を鬼にして、彼と向かい合った。ソルもタランチも、ブリックが口を開くのを待っている。
「だ、だが…」
「あ、アロエスに捕まった時、怖かったなあ…」
反論されそうになった! 即座に恐怖を盾にする!! ど、どうだ…!? 彼は考え込んでいる。これで駄目なら、もう打つ手はない…。少しして、彼は諦めたように両目を閉じた。それでもブリックの声にはしっかりと芯が宿っている。
「そうだな…ここに来た一番の目的は、君を救出することだ」
――こ、交渉成功である!
私はやり遂げたのだ…。既に私の呼吸は上がり切っていた。ブリックは小さく呟くと、魔物に向けてトンファーを構える。その姿を見て、肩の重荷がボロボロと崩れていくのを感じた。
「リンちゃん、マジでありがと~」
タランチは私の肩に手を添えると、ボスエリアの入り口付近で待機するよう促してくれた。もう疲れた…帰って寝たい。




