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010_新入社員の四苦八苦

リンの日記_四月三日(木)


 昨日に引き続き呪文の解読に試行錯誤している。

 アセロラと手分けをしてもなかなか終わりそうにない…などと思っていたが…。


「読めた…」


 アセロラがそう呟くのが聞こえた。


「え、理解できたの?」と高い声をあげる私。


「うん、重要そうな部分だけね」


「重要そうな部分?」


「頭から順に解読して行ったら終わらないかなって。だからアタリをつけてゴリ押しで進めちゃった」


 ヤバッ…この子、要領いいかも…。


「ごめん、私まだ全然終わってない」


「大丈夫、手伝うよ」


 二時間後。やっと呪文の構造が理解出来てきた、筈……。

 ここから呪文を書き換えて魔法陣を改造する必要がある。

 今回改造する魔法陣は【ヴレア・ボール】という攻撃魔法だ。

 この魔法は術者の手元に三つの火球を生成する。そして術者の指示した方向に火球を飛ばす事が出来る。消費する魔力も少ないし、火球の操作もそれほど難しくない。だから火属性の初心者用魔法として有名だ。

 今回の依頼事項は二つ。


1.火球を三つから一つに減らす

2.火球の体積を倍にする


 さて呪文のどの設定を変えていこうか。

 アセロラが沢山ある呪文の中の一節を指さした。


「多分、ここの設定を変えれば火球の数を減らせるよね」


 そうなの――?


 そう言われればそうっぽいかも?


「そうだね…やってみよう」


 アセロラは大学でも呪文を専攻していたそうだ。あれこれ試行錯誤する彼女はどこか楽しそうに見える。「外でテストしてみる?」とアセロラが聞くので「アキニレが『屋上使っていいよー』って言ってた」と答えた。参考書を借りに行くときについでに教えてもらっていた。


 ――ワークツリーの屋上へ階段を上がった。

 春風がとても心地いい。私はそれなりに長髪なのでバサバサと髪がなびく。


 うわあ、顔にかかった!

 

 髪が口に入った! 

 

 やはり春風など碌なものでない。それを見ていたずらっぽく笑うアセロラ。私は少し恥ずかしくなって、抱えていた魔導書をバサバサとめくった。


「ほら、テストするよっ!」


 魔法陣を起動すると宙に赤い魔法陣が浮かび上がった。

 あとは体内の魔力を消費し、魔法を発動するのみ。


「ヴレア・ボール!!」


 火球が三つではなく、一つだけ生成された!

 生成された火球はちゃんと私の手元で宙に浮いている。


てか、結構熱いな、これ。


「やった、成功!」


 アセロラが嬉しそうに声を上げた。

 今度は火球を大きくしよう。これは簡単に出来るはず。私とアセロラは二階の開発ルームまで螺旋階段を駆け下りた。私もアセロラもすでに目星はついていたので、こちらも呪文を書き換える。以前までの設定を削除して魔法陣に指で設定を追記していく。


「これでどうだ!」とアセロラ。


「早速テストしよう」


 私も内心テンション高めだった。

 屋上で再度魔法陣を起動する。


「ヴレア・ボール!!!」


 魔法陣が輝きを増し、炎が起こる。

 よし、このまま大きな火球が生成されれば――


 あ、あれれ…?


 しかし炎は球体にならず、すぐに消えてしまった。

 アセロラも首をかしげてしまう。


「あれ、おかしいな」


 ダメ元で何回か魔法を発動してみた。しかし結果は変わらない。やはり炎が球状にならない。無駄に魔力を消費し、やや疲れただけだった。

 二階に戻って魔法陣を再確認する。呪文の中に誤字脱字がないかを確認した。設定を書き換える場所もここで合っていると思う。それとも呪文の内容をどこか誤解しているのだろうか。


 分からない…。

 

 その後も色々と魔法陣を弄ってはみた。しかし火球の大きさを変える事は出来ない。

 

 ――正午になってしまった。

 私たちはとうとうギブアップした。申し訳ないが、これはアキニレに相談するしかない…。私とアセロラは重い足取りでアキニレを探した。せっかく任された仕事なのだから、ちゃんと自分で完了させたかった。

 正直、私には魔法道具のエンジニアとしてのプロ意識っていうのはまだ分からない。ただ、先輩たちを頼る事が申し訳なかった。多分アキニレや他の先輩たちはもっと難しい作業を行っている。それは素人目にもはっきりと分かる。その作業を中断させてしまうのが嫌だった。

 アキニレは開発ルームの机で別の事務作業を行っていた。

 机の上には財布が置かれている。これからお昼ご飯に行くところだったのだろうか。だとしたら更に申し訳ない。


「お忙しいところすみません。魔法陣が分からなくて…」


 するとアキニレはちょっと困ったように微笑んだ。


「やっと来たな新人二人。報連相がだいぶ遅いぞー」


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