8話 魔法
僕達は目的の森の入り口に到着した。
時間的には、もう少しで夕方といった所か、ちなみに僕達が拠点とした町はグリーというらしい。 マクスモートン侯爵領のグリーが、正式的な呼び名らしいけど、町の人達はグリーと呼んでるようだ。
とはいえ、このまま狩りを始めては暗くなってから野営の準備をする事になる。
しばらく、ここを拠点として、森で狩りをする事が良いかもしれない。
と言う訳で、馬を木に繋いで、テントを作ってと、野営の準備を進めた。
ミアとルナはもう夕飯なのかと、ウキウキしていたが、僕が馬に水を与えた所でこれから狩りに行くと言うと、ちょっと緊張しているようだ。
すでに夕方になって来たので、この時間はジャイアントバットが出現するはずだ。
さっさと森へ行くとしよう。
ミアとルナを連れて森の中へ進む。
来た道を忘れないように一定間隔に木に目印を付けて進んでいく。
そうしていくと、目的の敵を見つける事ができた。 相手はまだこちらに気付いていないようだ。
「よし見つけたぞ。 じゃあ、最初はミアが火の魔法で倒してみよう。」
僕がそう言うと、ミアが凄く悲しいそうな顔をさせた。
「ご主人様、ミアの魔法は、そんにゃににゃ~。」
言いたい事は分かる。 だけど、敵を倒して経験を積まねば成長はない。
「大丈夫。 取り合えず、火を目の前に出してみて。」
ミアは不安そうに、新しく買った杖を掲げて火の魔法を、そして申し訳程度の炎が現れる。
「それをあいつに向かって放つんだ。」
「にゃ~。」
ミアの気合の言葉で、炎はゆらゆらと頼りなく動き出した、そして今にも消えそうだった。
ここからが僕の時間だ。
ミアの炎をジャイアントバットにロックして弾丸のイメージで動かしてみた。
炎は凄まじいスピードでジャイアントバットに突き刺さった。
さらに突き刺した部位から火力を爆発させるように魔力を送ってみると、ジャイアントバットは一気に火だるまになり燃え尽きた。
「にゃわぁ~~んっ!!」
凄い叫び声を上げてミアが悶絶していた。
「ミア! 大丈夫か?」
僕は、ミアを抱きかかえる。
だけど、ミアの顔はだらけたように身体もビクンビクンと痙攣させてもはや動ける状態では無かった。
どうしたんだろ?
取り合えず、僕はミアを傍の木に休ませる。
「にゃう~。」
命に係わるものではないようだが、取り合えず、周囲を警戒する。
ミアの叫び声にもう一体のジャイアントバットがやって来た。
「よし、次はルナ! いけるな?」
「私ですか? どうしましょう?」
ルナは自分が戦うと想定していなかったようだ。
「氷だ、氷を作るんだ!」
「はいぃ!」
僕の声にルナは返事をし、杖を構えて目を瞑ってとかなり苦しそうに魔法を唱える。 すると、ルナの目の前に、小さな氷の塊が浮かんだ。
「それをあいつに向かって放て~。」
「はいっ!」
ルナの声とは裏腹に、小さな氷はふわふわと漂っていた。
また同じ要領で、ルナの氷をジャイアントバットにロックして、それを飛ばす。 氷がジャイアントバットに突き刺さった所で、僕は魔力を込める。 すると、氷が刺さった所からみるみるとジャイアントバットは凍っていき、氷の塊となったかと思ったら、パリンっと粉々に砕けて散った。
ミアの炎より、魔力を使用したような気がしたが、まだ僕は余裕がある。
「ルナ、次の敵を‥‥。」
ルナの方を見ると、ミアと同じように目の焦点が合ってないような感じでへなへなになっていた。
「ルナ、大丈夫?」
「あ、主様。 私の魔力が、なくなっちゃいました。」
「え。」
なるほど、敵を1発で倒せたけど、強力な魔法を無理やり使わせた為に、ミアもルナも魔力が切れたらしい。
じゃあ、今日はこれで野営地点まで戻るとしよう。
動けなくなったミアを背中に背負い、ルナを腕で抱えて、僕は森の入り口へ向かった。
拠点で、夕飯の準備をしていると、二人はすぐに元気になった。
どうやら魔力は時間が経てば回復するようだ。 しかし、戦闘で使えるようにする為にどんどん鍛えて行かないとね。
僕の思惑を知ってか知らずか、二人は元気に夕飯を食べるのだった。
次の日の朝。
夜はさすがに狩りは行わないが、魔物には注意する事は基本だけど、ミアとルナは関係なく眠るんだよな。 眠ってるとちっこくて可愛い。
朝に狩りの準備をしているとグリーの方からの馬車が通り過ぎて行った。 まあ、こういうキャンプには旅の方は慣れているんだろうが、僕達には少し新鮮だった。
そして、森の中を探索。
朝方という事で、森の雰囲気が違って見える。 魔物の活動も変化しているのかもしれない。
昨日と同じように進んで行くと、今度はキラービーを見つけた。 相手はこちらに気付いていないようだ。
割と先制を取れるのは魔法使いの利点だな。
キラービーの形体を見て、僕は少し考えてみた。
「ルナ。 水の魔法。 水の球を作れたりできないか?」
「水ですか? 作った事はないんですが、やってみます。」
ルナの身体にしては大きな杖を握って懸命に祈るように魔法を唱えると、ルナの前面に水で出来た球がふわふわと浮かんだ。
「主様、出来ました!」
嬉しそうに声を上げるルナ。
「よし、あいつにぶつけるぞ!」
「はい!」
元気にルナが返事をして杖を振りかざすが、水の球はふわふわと動いているだけだった。
このまま、水の球をキラービーにぶつけても倒せないかもしれない。 ちょっと、凝ったぶつけ方をしてみるか。
僕は、ルナの水の球を意識しながら、キラービーの目標地点を、一点ではなく、5カ所に分けてロックオンしてみた。 そして、水の球を勢い良く発射させる。 すると、凄いスピードで飛んでいった水の球がキラービーの手前で分裂して、5カ所にぶつかり、そのままの勢いでバラバラに砕けるような形に。
「くぅ!」
ルナが頭を押さえて苦しそうな顔をさせる。
魔力がまた無くなったのかもしれない。
「ルナ、大丈夫か?」
「はい。 昨日の氷よりは消費は低いみたいですけど、頭が痺れてます。」
そういうルナの顔は赤く上気していたので、かなりの負担はあったようだ。
「じゃあ、次はミア、頼むよ。」
「はいにゃ!」
ミアは元気に返事してくれる。
少し先へ進むとキラービーがまたいた。 この辺りはキラービーが多いのか? 夕方はジャイアントバットが多いとは報告書に記されていたけど。
後はホーンラビットを見つけないとな。
「よし、ミア攻撃だ!」
「にゃあ!」
昨日は頼りない炎だったのだが、今日は結構燃えてる感じで、ふよふよと敵に向かっている。
僕は昨日のように、キラービーに向かって炎をぶつけ、燃え広がらせると難なく倒せた。
どんどんやるぞと、その辺りのキラービーをルナの水魔法とミアの火魔法で倒していった。
夜には森の入り口に戻らないといけないとなると、この辺りで戦うのが限界なのかもしれない。 そしてようやく見つけたホーンラビット。
角の生えたウサギとはいえ、結構大きな体格をしておりあいつに体当たりされると痛そうだ。
けれど、僕達というか今回、いや、しばらくは魔法で倒すぞな感じなので、一方的に攻撃できるのだ。 やはり魔法は最高だ。
「ご主人様、美味しそうな獣にゃ。」
「確かに、美味しそうですね。」
ホーンラビットを見て二人はもはや食料、肉を見ているようだ。
とはいえ、ここで僕が倒しては意味が無い。
ミアの魔法では死体は燃え焦げてしまうし、ルナの魔法でも損傷が激しすぎる。 さてどうしたものか。
冷気の魔法を使えるルナなら、大気の変化に敏感かもしれない。 取り合えず、色んな魔法を使えたら便利だ。
「ルナ。 風の魔法を使ってみてくれ。 目の前に風を集めるんだ。」
「はい? 風、ですね。」
いきなりの要求に戸惑うが、それでも主の要求に素直なルナ。 一所懸命に杖に祈る様が可愛い。
すると、ルナの目の前に風の集まり、吸い込まれるような気流の集まりが出現した。
「主様、いきます。」
そう言ってルナが杖を振りかざすと、気流の塊がホーンラビットに向かって動き出す。 今回は今までと違ってなかなかに早い。
僕は、その気流に魔力を与えつつ、ホーンラビットの首元をロックして、気流の塊を半月状にイメージして解き放ってみた。
一瞬で、ホーンラビットの首が刎ねられ、そして効果を得た所で魔法は霧散する。
攻撃力もさる事ながら、一番攻撃速度が早い魔法だった。
「あああぁぁぁ。」
魔法を放ったルナが頭を押さえて身悶えてうずくまる。
また魔力の消費が大きかったのかもしれない。
「ルナ、大丈夫?」
僕はルナの身体をさすってあげてみた。
「うぅ~。」
僕が身体をさすると、少し顔が緩んでいるようだが、まだきつそうではある。
ルナに手を当てながら辺りを見ると、ホーンラビットが他にもいた。
ミアは、ホーンラビットを見失わないように見張ってくれているようだ。
「もう、大丈夫です。 まだやれます。」
額に汗を滲ませて、ルナが僕にそう言った。
一応、これは立派な修行なのだ。 なので、厳しいけれど、ルナに頑張ってもらわないといけない。
「よし、あっちにもう一体いるから、風魔法で仕留めよう。」
ルナは無言で頷くと、ホーンラビットを狙える位置へと移動した。
その際に、僕は先ほど倒したホーンラビットを回収する。 ここで解体作業をしていたら討伐が遅れてしまう。 解体はグリーの町で頼むとしよう。
ルナはもう一度、風魔法を唱えた。 今度は結構スムーズに気流の塊が出現し、僕の合図を待たずに解き放つ。 なので、僕は慌てて、先ほどと同じように魔力を込めて、ホーンラビットへ。
同じような感じでホーンラビットを倒す事に成功だ。
今度はルナは頭を押さえるようなしぐさはしていない。
なので、安心して倒したホーンラビットを回収した。
「主様、私の魔力は後1回で切れそうです。」
「さっきの頭痛みたいなのは魔力切れじゃないの?」
「いえ、なんだか新たな魔術回路が頭に刻まれたような感じでした。 まだ、頭がほわほわします。」
つまり、魔法適正の熟練度的なものが上がったという事か。
取り合えず出現させる程度の力で、僕が無理やり敵を倒せるレベルで使用したため無理やり引き上げた弊害なのだろう。 むしろ才能が伸びたという事で良しとしよう。
「じゃあ、後1体倒して、野営地点に戻ろうか?」
「はい。」
この後1体倒して、野営地点へ引き返す。
戻っている時は夕方に差し掛かっていた為、今度はジャイアントバットが現れた。
「ミア、ジャイアントバットは君が倒すんだ!」
「分かったにゃ!」
ミアは杖を構えて炎を出現させる。
ルナがホーンラビットを倒していた間は魔力を温存していた為、ミアは絶好調のようだ。
ミアが出した炎で僕はジャイアントバットを次々と火だるまにしていった。
「にゃははは。 あたしもルナに負けないにゃ~。」
僕が炎を操作しているとはいえ、最初に比べたら凄い成長だ。
多分、ダメージ的にはミアの火魔法の方がルナの魔法より高いと感じる。
「二人とも今日は良くやった。 この調子で明日も依頼をこなすぞ。」
こうして、2日目の狩りが終わった。
夕食にはルナも調子は戻っており、三人で仲良く食事をする事ができた。
しかし、最近ダイアーウルフの肉を良く使っているので、舌を変える為にホーンラビットの肉を使えるようにはしたいな。 というか、食材の肉の種類をある程度揃えても良いかも、ルナが冷凍できるし。
僕の思惑を知る事もなく、二人は美味しそうに肉をはふはふと食べている。 子供の食べ様はなんだか癒されるな。
今の所の成果。 ジャイアントバット5体。 キラービー4体。 ホーンラビット3体
この調子ならあと2日で完了しそうだな。
という感じで、その後2日でそれぞれ10体づつを討伐完了し、ホーンラビットの死体も10体回収できた。
1週間の予定だったけど、今日はもう休んで、明日の朝にグリーへ戻れば昼には着くだろう。
そうして朝を迎え、野営地点を撤収。
今回の討伐依頼でミアとルナの魔法が格段に成長したのは間違い無かった。
僕の援護がなくても、ミアは焚火の火を起こせるし、ルナも3種類もの魔法を扱える。 ルナの場合水が使えるようになったので、これで水を買わなくて済むのも大きい。
まあ、水を作ると言っても、僕が手伝わなければ、少量しかまだ作れないけれども、使う事さえ出来れば僕が魔力で干渉できるので、思うままに水を作る事ができる。
馬車の移動をミアに任せて、グリーへ戻っていく間、僕はとても満足していたのだった。
昼になる前に、グリーの町についた。
余った消耗品等はまとめて、僕の中へ。 また狩りに行く時に減った分だけ補充すればいい。
あと、衣類や小物が入った荷物やリュックはそれぞれが背にしたりで、とりあえず馬車を返した。 またしばらくしたら借りますとも言っておいた。
とりあえずまた同じ宿を借りるとして、ダンカンさんに頼んだ素材代の引き取り日までに併せて宿を借り、そこから狩りに出るかな。
おなじみとなった宿に荷物を預けて、僕達は冒険者ギルドへと向かった。
一応お昼時という事で、併設のお店も盛況のようだ。 相変わらずお酒の匂いがするけれども。
僕はミアとルナを連れて、奥のカウンターへと。 その際にじろじろ見られるのは何だかまだ慣れないな。
カウンターには若い子が他の人の対応をしていたので、それを待っていると、以前冒険者登録をしてくれたお姉さんが僕を呼んだ。
「ミナトモ君だっけ? 今日はどうしたの?」
「あの、E級の依頼が終わったので報酬を貰いに来ました。」
「へ~そうなんだ。 じゃあ、冒険者カードを貸してくれるかな?」
やけに馴れ馴れなお姉さんに僕のカードを手渡した。
ふんふんと鼻歌交じりに僕のカードとお姉さんが持っているプレートを確認している。
そうしていると、お姉さんの顔色が変わっていくのが分かった。
「えっと、うん? あの、悪いんだけど、ミアちゃんとルナちゃんのカードも貸してくれる?」
ミアとルナは名前を呼ばれたのでそれぞれ自分のカードをお姉さんに手渡した。
もしかしたら、僕が直接倒してなかったのが問題になったのだろうか?
しかし、ミアとルナのカードを確認したお姉さんは、凄い剣幕で僕に話しかけてきた。
「二人が全部! 魔法で倒してるんだけど! どういう事なの!?」
「その通りですけど?」
「いや、二人とも魔法で戦えるレベルじゃなかったじゃない!? なんで!? どうして!?」
お姉さんは偉く混乱しているようだ。
「あたしが魔法でやったにゃ!」
「私だって頑張りました。」
僕は二人を褒めるように首筋を撫でてやると、気持ち良くすりすりしてくれる。
受け付けのお姉さんは少し納得してない様子だったが、依頼の固定報酬と個別の報酬をまとめて渡してくれた。 しめて3万9千ギル。
Eランクとはいえ、討伐依頼は報酬が高めだが、普通のパーティーだとここから人数によって分ける事になるので、狩りに使う消耗品等を考えるとやはり相応の報酬なのかもしれない。
これから素材代の引き渡し日の3日目までは町でゆっくりしてもいいだろう。
とはいえ、回収したホーンラビットは解体したいので、今日はダンカンの店に行ってみよう。
ダンカンの店は、結構臭っていた。
「お、ミナトモじゃね~か。 どうした?」
「食肉用にとホーンラビットを回収したんですけど、ここ以外に解体してくれる所ありますか?」
「ホーンラビットか、なら料理屋に卸してる所でいいか。」
そういって、メモに簡易的な地図を描いて渡してくれる。
「主に畜産の肉を捌いている所だけど、この町の食にたずわさってるだけに仕事は早い。 店主はビフトロっていう奴だからそいつに言ってみな。」
魔物の解体はまた後日頼むという事で、今度はダンカンさんから紹介されたビフトロさんの店に向かった。
区画的には食品を扱う所なのか、周りは食べ物の素材が並んでいる店が多い場所だった。
「ごめん下さい。」
紹介された店に入ってみる。
「ん? どうしたかね?」
「狩りで手に入れたホーンラビットを解体してもらいたくて。」
「ほう、解体するだけかい?」
肉はまだまだ手に入る予定なのだが、あれだけ苦労したルナが食べさせてもらえないと分かったら機嫌が悪くなるかもしれない。
「肉は何体かこちらが引き取るので、残りの肉と毛皮は買い取って頂けると。」
「ふむ。 ではホーンラビットはどこに?」
ダンカンさんの時と同じように店の外を確認しているビフトロさんに僕が話かける。
「あの、僕がストレージ持ちなので。」
「おお、ストレージとはいえ、死体を持てるとは中々の胆力があるな。」
あははは。 僕は力なく笑って返事をする。 確か、ストレージは自分が価値を認める必要があるとかなんでやっぱり普通の人は敬遠するのだろうか。 むしろ便利に運べるのにな。
そうして、作業場にホーンラビットの死体を10体並べた。
「ふむ。 なかなか良い状態だね、傷んでいる所もないし、鮮度も良い。 これなら明日にでも渡せると思うぞ。 解体料は、素材代と一緒に清算するでいいだろうか?」
という感じで、明日また来た所で肉をゲットできそうだ。
とりあえず今日の用事が終わったので宿に戻る。
「う~ん、色々回ると疲れちゃうね。」
宿で借りた部屋で、お湯とタオルで身体を拭いていく。 町に居る間は寝る前には日課にしたいが、帰ってきたばかりだとさすがに僕が気になってしまう。 なので落ち着いた時には取り合えず身体は拭いておく事にしよう。
「にゃ~。 もうすぐ夕方にゃ~、お昼ご飯たべそこなったにゃ~。」
「そういえばそうだったね。 夜は二人の好きな物を沢山食べようね。」
僕の言葉に嬉しそうにはしゃぐ二人。
しかし、身体を拭くのはそろそろ自分でやってもらいたいんだけど、等と思いながら二人の身体を僕が拭いてあげるのだった。




