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見せつけることもお仕事です 2

「あら、フェルナン様。そちらは……?」


食事でもしようかと話していたとき、突然声をかけてきたのは、いくつもの宝石で身を飾ったご婦人だった。その隣には、真っ赤なドレスにこれまた豪華な宝石を身に着けた美しい女性がいる。親子なのだろうとジェシカは察した。娘の年齢は、自分とそう変わらなさそうだ。


どんな知り合いなのかと首を傾げたジェシカを、二人は無遠慮に上から下までジロジロと見てきた。悪意すら感じるその視線に、ジェシカは無意識のうちにフェルナンの腕に添えていた手にぎゅっと力を込めた。それを感じ取ったフェルナンはあいている方の手でジェシカの手をポンポンと撫でる。フェルナンのその心遣いに気を取り直したジェシカだったけれど、二人のその様子を見ていた娘の目が吊り上がっていくことに気付くと、再び身をこわばらせてしまった。


「大丈夫だ」


そっと耳打ちするフェルナンを見上げると、彼は〝任せて〟と言うように頷いた。


「これはこれは、お久しぶりですバーバラ夫人。と、そちらは……」


もちろんフェルナンは娘の名を知っていた。以前、このご婦人に押しつけがましく紹介されたことがあるからだ。

しかし、先ほど彼女がジェシカを睨みつけていた腹いせに知らないふりをしてみせた。母娘はそのことにいら立っていたようだが、フェルナンは気にも留めない。


「以前紹介させていただきましたが、娘のグレイスですわ。それで、そちらの方は?」


再びジェシカに向けられる無遠慮な視線を遮るように、フェルナンはさりげなく体の向きを変えた。

それまで浮かべていた余所行きの笑みはなくなり、彼が不機嫌になっていることをジェシカは感じ取っていた。


「こちらは、私の婚約者のジェシカ・ミッドロージアン嬢です」


〝ジェシカ、名乗るだけでいい。挨拶をしようか〟とこっそり耳打ちされて、〝はじめまして。ジェシカ・ミッドロージアンと申します〟となんとか声を発した。言い終えるや否や、フェルナンはさっとジェシカの腰を抱き寄せて、自分の陰に隠してしまう。その行動に、母娘の目がますます吊り上がっていく。


「ひどいですわ、フェルナン様。うちのグレイスをと話していたではありませんか」


母親とともに、イラ立ちを隠さないグレイスを見て、彼女はフェルナンのことを好いているのだろうとジェシカは感じていた。けれど、フェルナンの方はなんとも思っていないことは明白だ。


「承諾した覚えは一切ありませんよ」


圧をかけるようなフェルナンに一瞬怯んだバーバラは、それでも気を取り直したようで、フェルナンに詰め寄る。


「うちの娘に何か不満でも?」

「いいえ、そうではありません。私はジェシカに出会って初めて、不満という言葉の意味を知ったのです。もっと会いたい、もっと好きになって欲しい。どれだけ一緒に過ごしても、別れの時間を思うと満足できない。そんなふうに思えた女性はジェシカだけです。ですから、彼女を望んだのです。幸い、彼女もまた、私を求めてくれましたしね」


盛大な惚気を披露するフェルナンに、さりげなく近くに控えていた騎士が心底驚いた顔をしている。

(この不愛想な団長が、こんな顔をするなんて……)

騎士だけでなく、居合わせた面々も驚きを隠せないでいる中、ジェシカは真っ赤な顔を隠すように俯いていた。


「なっ……」


フェルナンは、言葉をなくすバーバラを満足げに見ていた。

しかし、娘のグレイスの方は違ったようで大人しく引き下がるつもりはないようだ。勝気そうな目元をさらにぐっと吊り上げると、彼女はおもむろに口を開いた。


「フェルナン様。少しぐらい見目が良いからと、惑わされたのですか?私だって、外見には自信があります。しかも、そちらの方より若く、地位だって上よ。それに、この方って令嬢らしくないって有名じゃないですか。そんな方が騎士団長であるフェルナン様の婚約者だなんて……あなたの恥にしかなりませんわ」


(もっともなことを言われてしまったわ。反論の余地がないほどに)

ジェシカにとってグレイスの言葉はストレートすぎて、落ち込むどころか言われて当然だと思わず納得してしまった。

彼女に何を言われても、自分は落ち込むことはしない。フェルナンは、そういうジェシカが好きだといつも言葉で表してくれるからだ。

もちろん、行き過ぎたはしたなさは直さなければならないことも自覚している。それでも、自分は自分らしくいてよいのだと、いつもフェルナンが与えてくれる言葉はジェシカの支えとなってきた。


そして今この瞬間も、腰を抱くフェルナンの手は、ジェシカはそのままでいいんだと言い聞かせるようにぐっと力を込めて勇気付けてくれる。

だから、ジェシカは俯かなかった。身分の違いには怯んでも、やっかみに怯む必要はないと。


「グレイス嬢。言葉遣いに気を付けることもできませんか?」

「なっ……」


憧れのフェルナンに鋭い口調で咎められ、勝気そうなグレイスも言葉をなくして表情をひきつらせた。ジェシカが隣を見上げれば、怒りを隠そうともしないフェルナンがいた。


「あなたは、私が外見と年齢だけで伴侶を選ぶとお思いですか?年齢で言えば、私もずいぶん年増ですが?」

「なっ、えっ……」

「外見?笑わせないでもらいたい。そんなもので一生の伴侶を決めるなど、愚かしい。私は彼女の内面に惹かれたんですよ。人一倍家族思いで、領民思いなところ。いつも自分より他人を優先するところ。そんな心の綺麗な彼女に惹かれたんです。ああ、もちろん。外見も好きですよ。彼女の内面を映したかのような、この優し気な外見も」


特大な惚気を投下されて、ジェシカは恥ずかしさに固まってしまった。そんな彼女をフェルナンが優し気な表情で見下ろして愛し気に髪をなでる様子は、誰がどう見ても仲睦まじい恋人の姿だ。


フェルナンがジェシカの優しさを盛大に惚気た裏で、グレイスに対してその釣り目気味で勝気そうな顔は、意地の悪い内面の表れだと揶揄したことに気付いた周りはこっそり失笑し、言われた母娘は真っ赤になって恥ずかしさと怒りから体を震わせていた。


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