表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/33

男所帯の一致団結 2

初めてデートをしてからというもの、フェルナンはジェシカに宛てて毎日手紙とプレゼントを贈った。つつましやかな暮らしをしてきたジェシカのこと。突然豪華なものを贈っても喜んではくれないだろうことは想像に易い。それどころか、自分だけが贅沢をしてよいものかと悩みかねない。

そこでフェルナンは、彼女が臆さないものを選んだ。協力者は二人の共通の友人、ロジアン夫人だ。


最初は花束を贈った。

次に、みんなにも配れるようにと焼き菓子を多めに。

ジェシカは刺繍が得意だと知れば、少しだけ高級な糸のセットと数枚の布を贈った。ジェシカお手製のものを返してもらえるという自分の願望を満たす目的に加え、彼女としてももらうばかりじゃないと気を楽にしてもらうためだった。残った材料は、家族のために使ってもいいし、孤児院のバザーに出品するもよしと、ジェシカが自分に遠慮なく使ってよいとの配慮も忘れずに。


その合間で、数回デートにも誘い出していた。

近場だというのに、王都を歩いたことはほとんどないというジェシカに、最初は紅茶の専門店や雑貨店など、彼女が好きそうな店を選んだ。手ごろなものであれば、たとえフェルナンが金を払ってもジェシカはそこまで恐縮しないだろう。その絶妙なラインをいく店のチョイスは、ロジアンによるところが大きい。


しかし、想定内とはいえ、些細なものでもジェシカは盛大に遠慮した。


「私もいい大人だし、身分もある。若い女性に金を出させるなど、恥をかかせないでくれ」


と茶化して言うことで、渋々ではあったものの、ジェシカは引き下がってくれた。


領地をほとんど出たことのないジェシカにとって、フェルナンとのデートはいつでも新鮮で、心の底から楽しんでいることが常に伝わってきた。


ジェシカのぎこちなさは、すぐに解けた。もともと領内でたくさんの人と接してきた彼女のこと。その性格は気さくで、人懐っこい。

フェルナンと出会ってすぐの頃から彼のことを〝友人〟〝同志〟などと言っていただけあって、慣れるのも早かった。その隙をつくようなフェルナンの甘い攻撃に戸惑い驚きながらも、拒否はしない。そんな彼女に、〝いける〟と確信していたのは言うまでもない。まあ、手ごわい相手だったとしても、逃す気は一切なかったのだが。


こうして逢瀬を重ねていく中で、彼女が自分へ向ける思いが変化していくのをフェルナンは感じていた。


〝友人〟から〝気になる異性〟へ。


それは初めて接する大人の異性への憧れ、疑似初恋のようなものだったのかもしれない。けれど、抱いた思いは確かに存在する。ならば、このタイミングで攻めない理由はない。フェルナンは早々にジェシカに思いを告げ、〝yes〟の返事を得ていた。 


そして、父マーカスに挨拶へ行ったのが昨日のこと。若干マーカスが気後れしている感があったものの、一緒にいた弟オリヴァー共々、二人の婚約を承諾してくれた。

その足で、今後のことを話し合いたいと、フェルナンはジェシカを連れ出していた。もちろん、本心はジェシカと離れがたかった、だ。

行先はあらかじめ決めてあった。先日、ロジアンに聞いたカフェだった。詳しく聞けば、知り合いのやっている店だとわかり都合もよかった。

店主本人から何度か誘いを受けていたものの、男一人では気が引けてなかなか行けずにいた店だ。それならばと、気もない女性を誘うこともはばかられた。

なんでも大変人気な店で、スイーツもどれを食べても美味しいという。そこでなら、ジェシカを喜ばせられるだろう。おまけに人が多く行きかう中心地とくれば、ジェシカとの仲を見せつけるには打ってつけの店だ。


多くの人がお目当てにするプリンはすでに売り切れており、客足は落ち着いていたため、待たされることなく席に案内された。もちろん、この時点でフェルナンは、プリンがそれほど有名だとは知らない状態だ。


「フェルナン様じゃないですか!!」


女性的な雰囲気の人気店に、厳つい大柄の男がいればそれなりに目立つ。その存在にいち早く気が付いた店主は、さっそく彼の元へやってきた。


「ああ、ティモシー。変わりはないか?」

「ええ、ええ。おかげさまで、この通りお店も繁盛しておりまして。よくぞ来てくださいました。それで、こちらのお美しいお嬢さんは一体……?」


珍しく異性を連れた恩人フェルナンに、ティモシーは思わずはしゃいでしまいそうな気持ちを押さえつつ、それでも隠し切れない期待を込めて尋ねた。


「こちらは、私の婚約者のジェシカ・ミッドロージアン嬢だ」


〝婚約者〟という響きにティモシーが舞い上がり、瞳を輝かせた。

それに対して、気恥ずかしかったジェシカは頬を赤らめて俯いてしまう。


(可愛すぎる)

フェルナンはその厳つい表情の下で、初心な婚約者の様子に一人悶えていた。


「まあ、まあ、まあ。おめでとうございます。いやあ、フェルナン様がこんなにもお美しい方を……本当に、おめでとうございます!!」


今にも涙を流しそうな勢いでそう言ったティモシーに苦笑したフェルナンは、店主にこれ以上大騒ぎされる前にジェシカの好きそうなものを勧めてくれと促した。


「でしたら、ぜひともうちのプリンを食べてください。いま、王都で人気があるんですよ。本当は今日の分は売り切れちゃってるんですけど、少しだけ、余分にとってあるんです。こっそりお出しするので、ぜひ食べてみてください」


店主からの申し出ならば断わることもないとジェシカも同意し、提供してもらうことにした。


なるほど。人気だという通りだ。初めてたべるプリンの美味しさに、フェルナンは感心していた。


「なにこれ、美味しい!!」

「これならいくらでも食べられそうだわ」

「私にも作れるかしら?」


目の前に座る婚約者もプリンをいたく気に入ったようで、大きな瞳をきらきらと輝かせている。自ら給仕に来た店主に、ジェシカはプリンの美味しさを絶賛した。


「ありがとうございます。おかげさまで、朝一番に並ばないと買えないほど人気でして。そこまで気に入っていただけたのなら」


と、声をひそめたティモシー。


「まだよけておいた分があるので、ぜひ、ご家族の分もお持ち帰りください」


あまりにも魅力的な提案に、〝いいんですか?〟と嬉しいながらにも戸惑ったジェシカ。


「店主がそう言ってるんだ。ありがたくいただいていこう」


とフェルナンに促されて、満面の笑みでお礼を述べた。


〝差し上げます〟と言って譲らないティモシーに、〝商売なのにそれはだめだ。金は払う〟と言い張るフェルナン。もちろん、ジェシカに聞こえないところで。

一向に引かないティモシーに、〝それなら、もらう代わりに私の注文を受けろ〟とフェルナンは騎士団員全員分の菓子を注文した。ちょっとした数になり、売り上げにも貢献できるだろうと考えた彼の心遣いだ。


ちょうど明日は店が休みだというティモシーは、〝材料はありますから〟と、今夜中にプリンを作って、朝、騎士団の詰めている部署に届けさせると言い出した。休日に、しかも売れ筋の商品を大量に作らせてもよいものかと迷ったフェルナンだったが、いつかの礼をするために断らせてなるものかと前のめりになるティモシーの勢いに負けた。ではせめてもと、フェルナンは常識よりも多めの手間賃を上乗せすることで、ティモシーの申し出を承諾したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ