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初めてのデート 3

その後、二人は花を見て回った。もちろん、手をつないで。しかも指を絡めるような大人のつなぎ方だ。

午前中は全く気にしていなかった。というより、ジェシカは手をつながれていることに気が付いてもいなかったぐらいだ。それが意識し出すとなんだか恥ずかしくて仕方がない。

ジェシカは大好きな花を見つつも、ついちらちらとつながれた手とフェルナンを見てしまっていた。


「ジェシカ、座ろうか」


途中に置かれていたベンチに座った。もちろん、二人の間に隙間はない。

その近すぎる距離に、ジェシカの胸は高鳴るばかり。

(どうしちゃったのかしら?今日のフェルナン様は、なんだかいつもと違うわ)

やたら近いうえに自然に触れてくるし、自分に向けられる笑みは、これまで以上に優しくて、発せられる声音はハチミツのように甘い。

(な、なんだか、恥ずかしいわ)


「ジェシカの好きな花はなに?」


などと、とりとめもない会話が繰り広げられる中、座っているというのにつながれた手が解かれる気配はない。自分から放すことはなんとなくはばかられる。それに、こうしていることは気恥ずかしいけれど、嫌だとは思わない。

そんなジェシカの心情を察したフェルナンは、つないだ手にもう片方の手も添えて、ジェシカの小さな手を包み込んでしまった。


「フェ、フェルナン様……」


添えられた手に視線を向けると、〝嫌か〟と聞かれてしまう。

もちろん、嫌じゃない。

けれど……


「な、なんだか、恥ずかしいわ」

「どうして?」

「どうしてって」


(なんだか、今日のフェルナン様は意地悪だわ。答えられるわけないのに)


そうこうしているうちに、フェルナンはつないだ手を目の高さほどに掲げた。そして、ジェシカに流し目を送りながら、その手の甲にそっと口付けを落とした。


(な、なな、なに!?なにが起こっているの!?)

狼狽えるジェシカに、フェルナンがくすりと笑った。

(わ、私、からかわれているのかしら?)


「ジェシカと過ごしていると、時が経つのがあっという間だ」

「え?」


ふわりとほほ笑むフェルナンに、思わず目を見開いた。

彼のブラウンの瞳は、愛しくて仕方がないと自分に語っているのがわかってしまった。それは、父や弟妹達が向けてくるそれとは少し違う。

そんな目で見つめられたら、温かい気持ちが広がると同時にドキドキしてくる。


「ジェシカといると、ホッとするんだ」


大人なフェルナンからそんなふうに言われたことに、ジェシカは嬉しさを感じた。


「わ、私も、今日はすごく楽しい。そ、それに、フェルナン様といるとドキドキするけれど、すごく安心もするわ」


本心だとはいえ、思わずそう言ってしまったことが気恥ずかしくて俯いた。


「ジェシカ」

「は、はい」


上目遣いにちらりと視線だけを向けると、フェルナンはつないでいたジェシカの左手を再び持ち上げた。


(な、なにをするの?)

恥ずかしいけれど目をそらせなくて、彼のすることをじっと見つめていた。

フェルナンは絡めていた指を解くと、その大きな彼の掌にジェシカの手を乗せた。


「ジェシカのここは……」


そう言って、ちらりとジェシカに視線を向けたフェルナン。その口元をジェシカの左手に近付けたかと思えば、目を閉じてその薬指にそっと口付けた。


「私のためにあけておいて欲しい」


(そ、それって……)

鈍いジェシカだって、それがどういう意味かぐらいわかっている。父も亡くなった母も、その指にお互い同じ指輪をはめていた。夫婦の証として。


「これがどういう意味か、わかるか?」


コクリと頷くジェシカに、フェルナンは続ける。


「約束をしてくれないか?」


〝約束して欲しい〟ではなくて〝してくれないか〟と、まるで懇願するようなフェルナンに、ジェシカの胸がきゅんと締め付けられる。


フェルナンのことは好きだ。自分より大人で、いろいろなことを知っているのに、自分の言う些細なことに〝すごいなあ〟と褒めて、いつだって共感してくれる。夜会で出会ったほかの男性と踊っていた時は、少しでも早く終わらないかとばかり思っていた。けれど、フェルナンが相手だととにかく楽しくて、それは美味しい料理やスイーツを忘れるほどだった。

さっきみたいに、まるで甘えるような彼もなんだか可愛くて、愛しくて……

(愛しい?)

ハッとして顔を上げたジェシカは、大柄で厳ついフェルナンを見つめた。


(フェルナン様が、愛しい……?)


初対面からこれまで、彼と顔を合わせた回数は決して多いわけではない。けれど、そのどの時も彼は私という存在を否定しないで受け入れてくれた。とても令嬢とは思えない姿も。

彼の隣はとにかく心地よくて、オリヴァーのお小言も他人のうわさ話も、なにも気にしないでいられた。

(なんだか、防波堤のようね)

それがなかったら、社交に慣れていない自分など、周りにいいようにあしらわれて、あっという間に追い出されていたかもしれない。

そう考えたら、自分にとってフェルナンはいなくてはならない存在のように思えた。


「約束、します」


明確な言葉があったわけじゃない。あるのは、今交わした約束だけ。

それでも、これでいいのだと感じていた。



* * *


「一体、なにがあったんだ……」


一人やもめのいささか寂しいマーカスの寝室に、哀れな呟きが静かに響いていた。




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