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夜会は親しい友人たちと共に 3

「後で、ロジアン様とスイーツを食べる約束をしているの。フェルナン様もいかが?」

「それは楽しそうだな。だが、今夜は食べてもいいのかい?」


からかうように言われ、ツンと口を尖らすジェシカを、フェルナンは楽しそうに見つめている。その視線の意味は、妹のようだと思っているのか、それとも愛しい異性として見ているのか。

フェルナンにしてみれば、周りの人たちが自分たちのことを口々にささやき合っていることをわかった上での視線だ。当のジェシカは、まさか自分が注目を浴びているなんて思ってもいない。社交デビューをして間もないジェシカは、フェルナンが婿候補として令嬢たちに人気のある人物だと知らないせいもある。


「もう!!今夜は父からもオリヴァーからも許可が出てるんです!!」


あの常に鋭い視線で牽制していた弟が許可を出したのなら、間違いないだろうとフェルナンが納得する。


「それはよかった」

「ええ。ただ、条件付きですけど」

「条件?」


なんとなく想像がついてしまい、笑いそうになったフェルナンだったが、真剣な表情のジェシカに合わせて深刻そうな表情をしてみせた。


「ちゃんとダンスをしたら、いいって……」

「婿探しにか?」

「……ええ」


いかにも面倒だとため息を吐くジェシカを見て、フェルナンが苦笑した。


「ちゃんと踊ったら、食べてもいいんですって」

「ちゃんと、か」


ジェシカの言葉に、フェルナンがほんの一時考え込んだ。もちろん、その間も踊りは止めない。


フェルナンが踊るのは、かなり稀である。そのため、あまり認識されてはいないが、侯爵家の人間としてダンスも徹底的に指導されており、上手な部類だ。

対するジェシカも運動神経がよく、踊るのは得意だ。

話しながらも余裕ある様子で踊る二人は、相性も抜群で見ている側は思わず見惚れるほどだった。


「よし。じゃあ、このまま次の曲も私と踊ろうか?」

「フェルナン様と、続けて?」


驚くジェシカに、フェルナンは不機嫌な表情を作ってみせる。


「なんだ、私じゃ不服か?」


ニヤリとしてみせれば、ジェシカも同じように返す。

はたから見れば、二人はかなり親密そうに見えただろう。


「いいえ、とんでもございません。私でよろしかったらお付き合いさせていただきますわ」


わざとかしこまったように言うジェシカに、フェルナンが逆におどけてみせる。


「二曲ちゃんと踊ったら、お目当ての……」

「スイーツ!!」


ちょうどフェルナンがぐっと彼女の腰を抱き寄せたタイミングで、ジェシカがここ一番の満面の笑みを見せたものだから、周りは一気にざわついた。ジェシカの笑みに優しく笑いかけるフェルナン。やはり二人はいい仲なのかと、落胆の色が広がっていく。


そしてそのまま続けて二曲目を踊り出す二人に、周囲は答えを確信していった。

彼はよほど、ジェシカを気に入っているのだろう。二人は婚約関係にあるのかもしれないと。

間違いなく、ジェシカは気付いていないが。

肩を落とす令息達をしり目に、フェルナンは大人の余裕でジェシカをリードしていった。


「よし。ちゃんと果たせたんじゃないか?」


冗談口調で言うフェルナンにジェシカも倣って、同じ口調で言う。


「ええ。十分すぎるぐらいにちゃんと踊ったわ。父に報告しないと」

「ああ。一緒に行くよ。ロジアン夫人にも声をかけよう」


〝いいわね〟とはしゃぐ娘を優しく見守るフェルナンの様子に、マーカスはなんとも言えない気持ちになっていた。


二人はどういう関係なのか……


聞きたいけれど、聞けそうにないような。

もちろん、フェルナン側も何も言わない。


「……ということで、お父様。約束通り、ちゃんと踊ってきたわ」


確かに、〝ちゃんと〟踊ってはきた。しかも二曲もだ。

だがしかし、そこには本来婿候補を探すという目的があったはずだ。そのために参加したはずなのだ。

二曲ちゃんと踊ったとはいえ、友人(だと思う)と続けて二曲では、目的は少しも達成されていない。マーカスには、それを指摘できそうにないけれど。


「あっ、ああ。見ていたよ。だが、他の方とは……」

「お父様!!この後フェルナン様とロジアン様と約束をしているの。待たせるわけにはいかないわ」


被せるように話すジェシカに、マーカスはフェルナンを重ねてしまった。まるで彼に指摘されたかのように聞こえてしまえば、反対できるはずもない。


「あっああ、そうだな。それは失礼だ」

「お父上。私がちゃんと見ておきますので、大丈夫ですよ」


ジェシカには聞こえぬよう、そっと伝えてくるフェルナンに、マーカスはもはやお願いすることしかできなかった。


「よろしくお願いいたします」

「ええ。帰る時にはお声がけください。積もる話もあるでしょうから」


フェルナンは、ちらりとマーカスの背後に視線を向けた。その視線の先には、まだ何かと聞き出したいと燃えるマーカスの友人たちが控えている。

マーカスが、自分とジェシカの関係をどう語るのか。

フェルナンは含みのある笑みを残して、ジェシカを連れ去っていった。



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