絶叫ドライブ
「いまレッカー呼びましたから」
「よかった。これで安心ですね」
「時間かかりそうなので先に姉ちゃんの車で帰って下さい。こっちに向かってます」
「はい(‥姉ちゃん?!)」
― 1時間後 ―
「何かごめんなさいね~」
「いえいえ、お忙しいところすいません」
仕事帰りだったようでMさんのお姉さんは小さなバンで現れました。
(こんな日は高級外車より、バンだよね。)
色々あったけどやっと家に帰れます。Mさんと別れバンの助手席に座りました。
ほっと一息ついていると
「あれ、車線てこっちでいいの?」
「ふぇ?!わぁああ逆です逆!!」
慌ててハンドルをきるお姉さん、さすがのスタッドレスタイヤも急ハンドルでは歯が立たず車体がスリップ。
焦ったお姉さんがハンドルを反対にきりまたスリップ。しばらく女二人の悲鳴が続きます。
「あははっごめんね~私、雪道なれてなくて」
ようやく態勢を立て直し運転席で陽気に笑うお姉さん。
「いえ~(もしや天然?)」
という疑惑がよぎるものの、せめて助手席の私は冷静でいなければと姿勢を正しました。
「あの、路面が凍ってるので急ハンドル急ブレーキは危険かと」
「だよね~エンブレ?」
「そうですね。エンジンブレーキがいいですね」
了解!とお姉さん、サイドブレーキに手を伸ばします。
「うわぁああ!それはダメ」
「あははっそっかー」
(ぜったい天然だ)
喫茶店に戻ってきました。
真っ白な駐車場にこんもりとした雪の丘、私の車が埋まっています。
車の発掘作業をし、エンジンをかけました。
「じゃあね~」
クラクションを鳴らすお見合い相手のお姉さんに笑顔で手を振ります。
(どうしよう…ものすごい楽しかった)
お姉さんとの雪道ドライブは、スリルとサスペンスに満ちていて時々天然をかますお姉さんにツッコミをいれては二人で笑い
車がスリップしては二人で悲鳴を上げ…正直Mさんといた数時間より何倍も笑いました。
(あのお義姉さんと一緒だったら、結婚生活楽しいかもしれない)
本末転倒な考えが結婚に対し前向きに作用します。
後日、Mさんから連絡がきて私たちは2度目のデートをすることになりました。
場所はおしゃれなレストラン。間接照明にジャズが静かに流れる店内、黒いボウタイをしたウェイターが椅子をひいてくれます。
こんなお店が初めての私は緊張していました。席につくなりMさんが頭を下げます。
「この前はあんなことになってしまってすみませんでした」
「いえいえ、楽しかったですよ。」
「えっ?」
「お姉さんと話してたくさん笑いました」
「そうなんですか、何も言ってなかったな」
(そうなの?楽しかったのは私だけ?)
心が通じあったと思っていたのに、そんな風に感じていたのは私だけだったなんて。
ああ、お姉さんと連絡先交換しておけばよかった。でも弟のお見合い相手に連絡先きかれたらさすがのお姉さんも戸惑うよね。
考えているとMさんがせきを切ったように話し出します。
「先輩の友達の話なんですけど…」
(先輩の友達?どうしよう、興味ない)
「はとこの彼女が‥」
(はとこの彼女?純粋な他人です)
「〇〇っていう芸能人が…」
(ていうか誰?!)
この前は楽しませようと必死で気づきませんでした。
Mさんの話は”誰それの誰”というまた聞き的要素が強く、会話を弾ませようにも食いつく場所が見つからないのです。
ひとしきり話したあとMさんがトイレにたちます。携帯をみると友達からメールがきていました。
『お見合い相手の人とデートしてるんでしょ?どんな感じ?』
『…帰りたい (T_T) 』
『 ガンバレ! 』と一言、返事がきます。
適齢期といわれる年になり、親や親戚やまわりから彼氏は?結婚は?と言われ続けてきました。
お見合いに手を出してしまったのも「少しは納得してくれるかな」という思惑があったからです。
もちろん、うまくいくかもって期待もありましたが‥
Mさんは悪い人じゃありません。むしろいい人です。お金持ちなのに気取ったところがないですし、優しいし気づかってくれます。
だけど…
(これ以上、何をどうがんばったらいいの?!)
暗い気持ちになっていると、トイレから戻ったMさんが言いました。
「おもしろい話、してもいいですか」




