5年に1度の
駐車場..私は帰りたいとも言えず、Mさんのあとに続いて歩いていました。
(いよいよデートっぽくなってきた)
先ほどの奮闘で、本日の体力ゲージは限りなく0に近い状態です。
これからの数時間をどう切り抜けたものかと考えていると、Mさんがこんなことを言いだしました。
「会社の車で来ちゃったんで、車交換してきてもいいですか?」
「えっでもこの車でも全然‥」
「すぐなんで、ちょっと待ってて下さい」
言うやいなや駐車場に私を置きざりにして行ってしまいました。
「 ・・・・・・・ 」
喫茶店の駐車場、お見合い相手はいなくなり
ぼけっとつっ立っている私‥
(帰っちゃおうか)
邪心が芽生え始めた頃、低いエンジン音とともに一台の車が滑り込んできました。
「お待たせしました」
お金持ちとは聞いていたけれど予想を上回るお金持ち。私でも知っている外国の高級車が目の前にあります。
(これは‥喜ぶべき。なんだろうな)
私や私の周りだけかもしれないですが、初対面の男性がどんな車に乗っていようとさほど関心がないわけで
(そりゃお見合い当日に軽トラでこられたらちょっとひくけど…そんな人まずいないだろうし。
わざわざ人待たせてまでご自慢の車をもってこられても)
私の思いなどつゆ知らず運転席で微笑むMさん
「こうした方がいいですか?」
(ああ、オープンカーの屋根までオープン)
こういうのはトレンディーなドラマに出てくるトレンディーな人たちに似合うわけで、私たちがやったら完全になんか勘違いしちゃってる人。
(‥こっぱずかしい)
― 数分後 ―
「スゴイ スゴーイ!」
ヒーター付きのシートに座りはしゃぐ私がいました。(うっかりサービス精神を発動してしまったがために、ひっこみがつかなくなっている )
映画館に到着
無難に当時ヒットしていたアドベンチャー物を選びます。
チケットはMさんが買ってくれたのでお返しにフードメニューの所に並びました。
「飲み物どれにしますか?」
「すみません。じゃあコーラで」
「なにか食べますか?」
「俺はいいです。食べたかったら遠慮なくどうぞ」
「私は…ホットドッグ買おうかなぁ。あっでも全部は食べられなさそう。持って帰るのもなんだし」
「よかったら俺、半分食べますよ」
「…じゃあお願いします」
(何コレ普通のカップルみたい)
席に座ると、私はMさんから死角になる場所でホットドッグを2つに引きちぎり何食わぬ顔をしてきれいに切れた方を渡します。
「おもしろかったですね~」
「ね~!あそこで敵がでてくるとはビックリ。あの女優、他の映画でもみたことあるような…」
「あ~わかる!あれでしょ」
「そうあれあれ!」
なんだかすっかり打ち解けムード。お見合いなんて私ごときがとやさぐれ気味に笑っていたけれど
おじさんが言ったように友達作ると思って気楽にやれば、そんなに悪いものでもないかもしれません。
談笑しながら駐車場にでると私たちを待ち受けていたのは
一面の銀世界でした。
しばし呆然とする二人
(そうだ天気予報!)
出がけに見た天気予報は、5年に1度の冬の嵐がやってくると言っていました。
(このことだったかぁ)
あまりの景色の変わりように衝撃を受けていると、Mさんがさらに衝撃的な言葉をくり出します。
「どうしよう、ノーマルタイヤだよ」
耳を疑いました。
真冬の 雪国で ノーマルタイヤ
聞き間違いだと思いたかったのですが、Mさんの青ざめた顔が真実と告げています。
《《 あの時わざわざ車を交換しなければ 》》
という思いが二人の頭をよぎったのは言うまでもありません。
後悔しても状況は悪化するばかり、仕方なく車に乗り込みました。
しかし雪の下はアイスバーン
「ひっ(ひゃあああああ)」
凍った路面にタイヤをとられ車は右往左往。シートがあったかいとか高級車だとかなんの足しにもなりゃしない。
それにど田舎から峠を越えてやってきたため、中途半端に街を離れてしまったいま
このまま帰れなければ、死あるのみ
(よくて車中泊だけれど…なんでどうして初対面の人と車の中で二人きり夜を明かさなければならないの?!)
景色同様、頭がホワイトアウトしそうな私。
Mさんもこのままではまずいと判断したのか車を止め、どこかに電話し始めました。




