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第三話『母』


「…もう、大丈夫」


井戸水で冷やす事二十分。

腫れが目立たなくなる事を井戸水を鏡代わりにして確認すると夕食の準備に合流する為台所へ向かった。


「藤乃」


屋敷に入ろうとした時、裏口からひょっこりと顔を出している華恵。

先程までの険しい表情ではなく、穏やかな表情で声をかけられきょとんと首を傾げると優しく手招きをされた。

どうしたのかと思い、招かれる方へ近づいて行った。


「さっきはごめんなさいね…ちょっと、裏庭で作業を手伝って欲しいの」

「お手伝い…ですか? でも、夕食の用意はいつもみんなでやってますし…」

「…いいの。ちゃんと許可は貰ってるから。それとも…お母さんの言う事は聞けない?」


華恵にそう言われると、小さく頷き、その後をついて行った。

たとえ酷い事を言われても、殴られたとしても母に優しくしてもらえると引き寄せられてしまう。

華恵の後ろをついて歩くが、裏庭に行っても作業らしいものが見当たらなかった。


「そこの柵、見てくれない? 何だか、壊れかかっているみたいで」

「柵…?」


水瀬家を守っている背丈よりも高い柵を指差されると、不思議そうにしながらも近付いた。

近づくと、確かに腐っており、何か刺激が与えられれば壊れてしまいそうな状況。

しかし、この状況で子どもの藤乃に手伝える事で何があるのか分からない。

きょとんと首を傾げながら華恵の方を再度見ると、ニヤリと口角を上げていた。


「ごめんね」

「え…? っ!」


華恵が力一杯、藤乃を突き飛ばすと背中が柵に当たり腐っている部分からヒビが入り、藤乃の体は空に放り出された。

そのまま重力に逆える訳もなく水瀬家の敷地の下にある森へ真っ逆様に落ちて行った。


「あの子さえいなくなれば…!」


華恵は、落ちていく藤乃をじっと見つめた。

震える唇で何度も呟く。


「これでいい……元に戻れる……」


そう自分に言い聞かせるように。


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