第十一話『久世景』
数十分前ーー。
帝都の中心部は、常に人で賑わっている。
そんな中でも、腰に刀をさしている人は一層目立った。
廃刀令が政府から命じられて数十年。
刀を持っている者は、警察官、軍人など一部の者のみ。
そして、この二人も浮いていた。
「…あの娘。どう思う?」
古くからある甘味処の縁台に刀を携えた男が二人。
そのうちの一人・久世 景が甘味処の向かい側にあるハイカラな喫茶店で楽しそうに話す若い女性を見て尋ねた。
「お辞め下さい、隊長。若い女性を見てどうだとか…他の者に聞かれたら誤解されてしまいます」
上司の発言に顔を引き攣らせながら答える桐谷 千影。
「案ずるな。あちらにできたハイカラな喫茶店に客足が取られ、こちらに人などいない」
「…店主に聞かれたら出禁を食らいますよ」
配慮に欠けた発言に、店の奥で作業をしている店員の様子を伺う千影。
一口茶を飲み、呆れながら口を開いた。
「そもそも、もう十年探してるんでしょ? しかも当時は子どもで…十年もすれば大人になっています。子どもの時の身なりも、うっすらとしか分からなくて、名前が…なんでしたっけ」
「…藤乃」
景がそう呟くと、十年前、恩人が残していった手拭いを出した。
彼は、十年前に瀕死の状態から今の元気な状況まで回復してくれた恩人を探している。
手がかりは、『藤乃』と刺繍された手拭いと、微かな意識の中で覚えていた十歳にも満たないくらいの子どもが、泣いていたということ。
そして、素性を知ろうとしたら逃げられてしまったという事。
「そう、藤乃さん。まだ苗字が分かれば見つけられるかもしれませんが名前だけって…」
「彼女は、治癒術を使っていた…だから、名前だけでも見つかると思っていたんだ」
途方のくれる捜索をしている景にため息をこぼす。
治癒術の能力を持って生まれる者は、限られている。
異能が溢れた世界でも、特殊だからだ。
「言いたくありませんが、もう見つからないと思いますよ。治癒術を使う家の者の名前は、仕事で使う情報網で調べて出てこなかったじゃないですか」
「しかし…! まだ、名門の水瀬と清谷を調べてない…!」
景が必死に返すが、千影はまた大きなため息をこぼした。
「水瀬家で、隊長が言う年に当てはまるお嬢さんは二人。ただ、一人は能力がないそうで…名前も公表されていません。そして、もう一人は佳乃さん。あんな有名人の顔、隊長だって知らないわけがないでしょう」
「む…たしかに。彼女ではない、な…幼い時の顔も知ってるし…」
水瀬佳乃は、水瀬家始まって以来の天才と呼ばれる治癒師。
幼い頃から活躍はすごく、十八になった今では美貌も兼ね備えており帝都中で知らない者はいない。
「それに、清谷家の子どもは全員男です」と付け加える千影。
「あと、もう十年経ってるから本当に実在するとしても結婚してますよ。遠くへ嫁いでいるかもしれません」
「…? それがどうした?」
景が不思議そうな顔をして尋ねると、ジトッとした目をする千影。
「旦那のいる女を、しかもおっさんが探してたら…女性の立場からしたら嫌過ぎるでしょう。旦那に勘ぐられて、離縁になんてなったら隊長…責任取れます?」
「はっ…!? 俺は別にそういうつもりでは…というか、おっさん!?」
「十代か二十代前半の女性からすれば、二十八歳はおっさんです。自覚してください」
最後の一口の茶を飲み干してから冷たく言い放つ千影。
部下の言葉が、ぐさりと胸に刺さる景。
目元を手で押さえて項垂れていると、一人の男が駆け寄ってきた。
「おい! アンタ達…治安会の人間か!?」
「そうですが、いかがなさいました?」
慌てた様子で震えた指で少し離れた先を指した。
冷静に尋ねる千影。
「あっちで、男が女の子に…! もしかしたら、反国勢力やもしれなくて…とにかく、早く来てくれ!」
「なっ…! なんと非道な…隊長っ。早く我々…が…」
千影が指示を仰ごうと、景の方を見ると先程までとは一変し目の色を変え表情がまるで違う。
「参ろう、民が危ない。千影、先陣は俺が切るーー後方は任せた」
「…かしこまりました、隊長」
景の様子に、千影も空気を引き締めると伝達した男が言う通りの場所へ向かった。




