第十話『治安会攻撃隊』
ホテルへ入った当主と藤乃は見合いとして儲けた場所である料亭へと向かった。
そこには、既に斑目家が待っており当主が斑目家当主に挨拶をした。
「お待たせして申し訳ない。斑目様」
「いえいえ。こちらも先程参ったばかりです。気になさらないで下さい」
互いに挨拶をすると、当主は斑目家当主と向き合う形で座った。
藤乃は見合い相手である斑目家次期当主の前に座った。
「斑目様。こちら、娘の藤乃です」
「藤乃と申します。よろしくお願い致します」
挨拶をすると、藤乃は三つ指ついて深く頭を下げた。
次に頭を挙げると、斑目家次期当主の視線に思わず息を飲んだ。
藤乃を頭の先からつま先までねっとりお舐めるようにいやらしい目で見て、じゅるりと唇を一舐めした。
その目に耐えきれず、慌てて視線を逸らした。
「こちらは息子の修です」
「あぁ…どうも」
四十代後半と聞いていたが、修はろくに挨拶もせず、着崩した着物に無精ひげまで生えており、清潔感とは程遠い男だった。
藤乃は何度も、家の為だから仕方ないと心で唱えた。
話を進め食事に舌鼓をしていると、斑目家当主が口を開いた、
「せっかくの中心部ですし、藤乃さん。修と観光してはいかがですか?」
「え…」
「若い者同士、二人で話す時間も必要でしょう」
答えに戸惑っていると、当主が口を開いた。
「ぜひ。あまり此方へ出向くことのない田舎にいるものですから…藤乃、案内してもらいなさい」
「…はい。修様、よろしくお願い致します」
父に逆えるはずもなく、そう答えると修と共に料亭を後にした。
「ふ…藤乃さん…」
料亭を出ると、修から不慣れな感じで名前を呼ばれ、小首を傾げた。
「はい…?」
「に…人気の茶屋があるので、そちらはど…どうですか」
時折言葉に詰まりながら話す彼。
藤乃は、彼のぎこちなさが女性に慣れていないものだと感じると、先程までの嫌悪感が少し和らいだ。
「…はい。ぜひ、教えて頂きたいです」
藤乃がそう答えると、修はにやりと口角を上げた。
ホテルを出た瞬間だった。
修は笑みを浮かべたまま、突然藤乃の手首を強く掴んだ。
ギリッと骨に食い込むような強い力に藤乃の表情は歪んだ。
「い、いたっ…」
苦悶の表情で弱々しく呟けば、修の表情が途端に一変した。
「僕の言う事が聞けないのか?」
「えっ…い、いえ…その…っ」
「僕達は夫婦になる。夫の言う事を聞かない妻が、どこないる」
力が強くなり、藤乃は振り払うことも出来ず騒ぎに人だかりが出来始めていた。
(どうしよう…私っ…どうしたら…っ)
集まる人々、手首に走る鋭い痛み。
けれど、誰一人として止めようとはしなかった。
夫婦の痴話喧嘩に、わざわざ介入しようとする者はいないからだ。
藤乃の心は壊れそうになっていた。
「いだだだだだっ!」
修の苦しそうな声が聞こえたと思えば、手首の痛みからは解放された。
「民の平和の為に参った、治安会攻撃隊だ…貴様、どういうつもりだ」
藤乃を痛みから解放したのはーー先程回転扉を一緒に通ってくれた男性。




