第十二話『涙の治癒師』
「あそこです…!」
男が二人を案内すると、そこには人だかりができていた。
「周りは…何をしているんだ」
千影が呆れたように言うと、男が口を開いた。
「痴話喧嘩だと思ってて…でも、男の方がおかしいんだ…!」
男の言葉に、人を掻き分けるとその先にいたのは華奢な女性の細い手首を大柄な男が強い力で掴んでいる。
そもそも、帝都中心部の公道での騒動は処罰の対象。
景は人の隙間を縫って、修の制圧をした。
「いだだだだだっ!」
藤乃を掴む手を捻り上げ、地面に押さえつけた。
「民の平和の為に参った、治安会攻撃隊だ…貴様、どういうつもりだ」
「くそ…っ!?」
足掻こうとする修に力を加える景。
「帝都の中心部で揉め事を起こせば処罰の対象という事は知ってるであろう。それを守らぬとは…貴様、反国側か。すぐにでも警察にくれてや…っ!?」
修の自由を一層奪おうと押さえつけると、ポンと気の抜けた音を出して姿を靄に変えて消えた。
「…幻術使いか」
「隊長。警察に引き渡しを…おや」
「申し訳ない。警察官殿。幻術使いのようで、逃げられてしまった」
千影が呼んできた警察官にそう伝えると、警察官は現場検証だけを簡単に済ませた。
「幻術なら追跡は難しいですね。また情報が入り次第、連絡します」
千影がそう伝えると、警察は元の職務に戻った。
「ご令嬢。大丈夫ですか?」
「っ…あ、ありがとうござ…あっ」
一連の出来事が終わると、景が藤乃に声を掛けた。
先程までの事があり、声を掛けただけで小さな体を震わせる藤乃。
気の毒に思い、慈しむ気持ちで藤乃を見つめた。
藤乃が顔を上げて礼を伝えると景の表情を見て、ハッとした。
それは、景も同じだった。
「キミは…先程振りですね。手首、痛めたでしょう。ウチの医療隊に診てもらいましょう」
「い、いえ…私は…。っ、それより…!」
「っ…!? ご…ご令嬢…?」
修の遠慮ない力によって、赤く腫れてしまった手首。
ジンジンと痛んでいたが、彼女の目には景の擦れてしまった手の方が気になった。
掴まれていない側の手で彼の手に添えれば胸がぎゅっと締め付けられた。
(私のせいで…この方の手が…っ)
「ご…ご令嬢。その、嫁入りする娘がむやみに男の手を握るなど、褒められたこと…では…」
ぎこちなく言う景。
しかし、彼の言葉は途中で途絶えてしまった。
藤乃の大きな瞳から、涙が溢れてしまいそうになっていたからだ。
「それほど痛むか…!? 早く医療隊の拠点へ参りましょう…!」
藤乃の顔を覗き込み彼女の涙を止めようとするが、ぽろっと一筋の涙が溢れた。
「っ…ごめんなさいっ…私のせいで、怪我を…っ」
ぽたぽたと涙が滴り落ちると、景の手と藤乃自身の手に落ちた。
その瞬間、神秘的な光が二人の体を包み込んだ。
藤乃の手首の腫れはみるみる和らぎ、景の手の擦り傷もどんどん治っていった。
「っ…な、なんだこれは…先程の男を制圧した時に付いた傷が…消えた…?」
光がだんだんと弱まり、完全に消えると景は自身の手をまじまじと見た。
擦り傷が、まるでなかったようになったのだ。




