2 朧月
半月が薄雲の向こうから、バルコニーを朧に照らしている。
王は時折、心ともなく杯を口に運ぶ。
淡く照らされた紫紺を横目で盗み見ながら
紅蓮は思った。
「……綺麗だ」
紫紺が深紅を向き、問うような視線を当てる。
「あ、いや、ほら。月が、さ」
紅蓮は月を指差した。
指した先の月に、一瞬見惚れた。
「……なんだかヴェールでも被ってるみたいだね。
綺麗。」
王は僅かに目を見開き、くすりと笑う。
「あれほど苛烈に戦う其方も、月を愛でるのだな。」
きょとんとする紅蓮に、王はもう一度笑う。
「時に其方、魔力は支障ないか?
魔力切れで寝込んだと思えば、ポンポン術を使いおって……」
「魔女ですから。」
回復は早い、と紅蓮はニッと笑い返す。
ふと、静かな時間が流れた。
広間から賑やかな音楽が聞こえてくる。
王が不意に口を開いた。
「反乱軍とは……『表』に攻め入る事を主張する
一派だ。旗頭は先王の時代に将軍を務めた者だ。」
紅蓮が真顔になり頷いた。
「例の、ドルクって人?」
「ああ。先王は『表』に攻め入り、ドルクもそれに従った。王が討たれた後も、奴はなお『表』を夢見ている。」
深紅がパチパチと瞬いた。
「待って、情報が多すぎる。
……じゃあ、先王が『魔王』だったって事?」
「ああ。其方も聞いた事があるであろう?
魔王を討った六人の守護者の英雄譚を。」
王がゆっくりと頷きながら口にする。
「……もちろん知ってる。
守護者の1人は、魔女だったから。
あたしが魔女になる前の事だけど、
その魔女の話はよく聞かされたよ。」
「……アウララ……か……?」
王が呆然と呟いた。
「さすが『伝説の魔術師アウララ』だね。『裏』でも有名なんだ。アウララは、『光彩の魔女』だった。」
「……そうで、あったか……」
王は深紅を透かすような、どこか遠い視線を向ける。
紅蓮は眩しげにその視線を受け止めた。
「それからさ、反乱軍がそういう目的なら、王様はその反対って事だよね。
つまり、王様はあたし達の『位相』を守ってくれようとしてる。」
「……それは少し違う、な。
我は我の国を守ろうとしている。
『表』に干渉せず、『裏』にも干渉させぬ。
表裏であり不可侵。
その正しき姿を違えれば位相は歪む。」
「あー……だから歪みの裂け目が残ってるんだね。」
王は重く頷いた。
「塞いだ裂け目を無理矢理通って来た馬鹿も居るようだがな?」
「……oh……」
紅蓮は、月を眺めた。




