6 帰還
「王様ーーー!」
王が近衛の背に迫る刃を紫紺の光で受け止めた時、空から声が響いた。
押し返そうとした刹那、「えい!」と火球が降ってきて、刃を持ち主ごとジュ、と溶かした。
王は息を呑む。
そんな紫紺の隣に降り立ち、紅蓮は笑った。
「左翼殲滅した。そこから逃して。
殿やるから、王様とみんなはこのまま進んで、部隊と合流して。」
王が何か言い返そうとするも紅蓮は瞬く間に空へ飛び立ち、囲まれた近衛に火球を投げて突破口を作る。
王は一つ頷くと馬を駆った。
近衛達の前へ出ると躊躇いなく敵兵を薙ぎ払う。物言いたげに向く視線達に声を張る。
「殿は烈火殿が務める。左翼に向け血路を開く!」
その後は圧倒的だった。
先頭に立った王が薙ぎ払い、近衛らが掃討する。追ってくる者、囲い込んでくる者達を紅蓮が燃やし尽くす。
そして中央戦線を背後から叩いていた部隊が、
包囲されていた前線部隊が、合流した。
もう数の利さえ覆す状況だった。
遂に敵軍を突破し、帰還が号された。
紅蓮は、笑った。
「紅蓮の魔女が令す
暗き淵にて荒ぶる焔よ
息づき脈打つ浄化の焔よ
今こそ地界より湧き出で
我が推しに仇為す者に
その猛々しきを見せしめん
【イグニス・プルガトリ(煉獄の烈火)】」
地面が揺れた。
地を割り、火柱が立ち上がる。
守るべき者がいなくなった戦場に容赦なく炎が噴き上がり、残党を飲み込んで行った。
運良く逃れた者をそのままに、
魔女は帰還の途についた。
城の門をくぐると、王が立っていた。
紅蓮はふわりと降り立ち、満面の笑みを浮かべて王に向かう。
「え、待っててくれたの?うれしー♪」
弾む声に重い声が返す。
「……烈火殿。此度は貴殿の力で失わずに済んだ命も多かった。礼を言う。」
魔女はもじもじと照れた。
「え、え、そんな、一宿一飯の恩返しだから……お礼なんて良いのにぃ……」
「が、一つ訊きたい。貴殿は何故…「グレン。」
王の言葉に紅蓮の声がカットインする。
王は目を瞬かせた。
「あたしの呼び名はグレン。後『貴殿』もいらない。
お前とかでいい。」
「……あー……ええと、では、グレン、殿」
「グレン。」
「……グレン。」
魔女はこくこく頷いた。
「グレン。其方、何故我らに躊躇いもなく手を貸した?」
「え、一宿一飯の…「それはもう聞いた。」
王のカットインのターンだ。
「それはそれとして。其方は我らと反乱軍の因縁を知るまい。反乱軍の側に其方の理があるやも知れぬとは思わぬのか?」
紅蓮は首を傾げた。
「……えーっと。『もしかしたらあっち側の戦う理由の方が、あたし的に賛成できるかもしれないのになんで?』って事で合ってるよね?」
王は重く頷く。
「んー……。あたしは、傭兵でもある。
お金じゃなくて恩をもらってその分働く。
それであたしが手を貸す理由には充分だよ。」
(推しの役に立てるなら本望です!)
心の声は辛うじて漏れなかった。
「……ふむ。」
王が腕を組み、じっと紅蓮の目を見る。
紅蓮がひたと見返す。
遂にすぅっと視線を逸らしたその時、不意に銀色の光が現れた。
光は、くるん、と深紅の周りを飛んだ。
ハッとした紅蓮がバッと掴み取る。
王の眉がスッと上がった。
光が喚く。
「ちょいと紅蓮!あんた何やっ……」
ぶち。紅蓮は、剣士の握力で握り潰した。
「おま、それ……」
「虫!なんか虫がいたみたい!」
「いや、しゃべって……」
「気にしない気にしない!気にしたら負け!
ほらほら中入ろ?こんなとこで立ち話もなんですから!」
「いやこれ我の城……」
紅蓮はグイグイと王を引っ張った。




