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紅蓮の魔女  作者: 宵宮 詠
第1章
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5 戦場

広間がシン、と静まった。

揺らめく炎が赤々と玉座を照らした。


グー、キュルキュル。


音が響いた。

紅蓮は慌てて腹を押さえた。

はぁ、と深い溜息が紫紺から漏れた。


「……まだ一宿のみだ。一飯もくれてやる。

腹を満たしてから、来い。」


王が手を振るとどこからともなくメイドさんが現れ、

一礼と共に「こちらへ」と手の平で指し示す。

紅蓮がバッと王を見る。

既にマントを翻し、部下を背に従えた王が、

笑った。


「ゆるりとな。」


カツンと踵を鳴らして王が広間から去った。


「……『魅惑の食彩亭』より、王様の方が美味しい……」


笑顔に撃ち抜かれ、紅蓮は辛うじて意識を保った。




「部隊は中央包囲網を背後から叩け。我は右翼に回る。近衛、来い!」


応、の声が響き、紫紺の王は数名の精鋭を引き連れ、馬を返し部隊を離れる。


決壊した右翼前線は、惨憺たる有り様だった。

王は累々と横たわる兵に唇を噛み、敵の背中を追う。

馬上の堂々たる姿は直ぐに敵の目を引いた。


「王が出たぞ!首を取れ!」


怒号が轟く。戦線を囲い込むべく進軍していた敵部隊が、王へと向きを変えた。


「貴様ら如きに取られる首ではないわ!」


王が抜刀する。

ゆらり、と紫紺の陽炎が立つ。


「殲滅せよ!!!」


剣を高々と掲げ叫ぶと、精鋭達が数の差に怯みもせずに、馬の腹に踵をぶつけた。


もう、と砂埃が立つ。血の匂いが濃くなった。


「ハァァァァッ!!!」


近衛が切り捨てた敵の影から、新たな敵が湧く。王が剣を一閃した。紫紺の光が敵兵の壁を薙ぎ払う。近衛が前進する。ガキン!と火花の散りそうな音を立て、次の壁と斬り結ぶ。

左右から押し寄せる波を、再び紫紺が薙ぎ払う。


ドン!と空気が揺れた。

ヒュン!と風を切り、魔導球が王達を目掛けて飛ぶ。


「くっ!」


間に合え。念じながら王が障壁を展かんとした、その時。


ガキーン!と魔導球が止まった。

紅蓮だ。

剣と炎で魔導球を受け止めている。


「……どっっっ、せーーーーーい!!!」


打ち返した。


ちゅどーーーーーん!


魔導砲が砕ける。敵兵が爆ぜる。

断末魔の悲鳴が幾重にも重なった。


「王様!来たよー♪

やっぱ食べると力が出るね、ありがと!」


ひらりと深紅が紫紺の横へ降り立った。


「……感謝する。」


「……ふへへ。」


魔女はもじもじした。


「で、あたしは何をすれば良い?」


「我らの戦線が包囲されぬよう敵を崩せ。

やり様は任せよう。但し、優先すべきは部隊の救出だ。」


「……敵さんに、情けは?」


「要らぬ。」


「あいあい♪」


紅蓮はトン、と地面を蹴ると、赤い彗星のように空を翔けた。

眼下に分厚い敵の層が見える。

紅蓮は、にやりと笑った。


「【イグニス・フルクトゥス(波濤の烈火)】!」


地を這う様な焔が生まれ出る。

敵兵を舐める様に炎が侵食する。

くつくつと笑いながら紅蓮が手を振ると、

炎が応じて縦横無尽に敵を飲み込んでいく。


「ギャァァァアアっ!!!」


あがる悲鳴は、炎から逃げ惑う兵達からだ。

炎に巻かれた者達は、その悲鳴さえ焼き尽くされる。


やがて紅蓮が、ふっと手を下ろした。

地面には僅か、燃え残った骨のみが燻っていた。


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