4 見参
重いカーテンの隙間から、薄ぼんやりとした朝日が差し込んだ。壁を彩る織り物に柔らかな光の筋が浮かぶ。
炎の色に縁取られた瞼がピクピクと震え、ゆっくりと持ち上げられた。
(知らない天井だ……)
紅蓮は瞬きをして、そろそろと身を起こす。
眩暈はない。グーパーグーパーと手を動かす。
「ん。そこそこ回復。」
言うと、「とぅ!」とベッドから跳ね起きた。
紅蓮の自室よりも遥かに豪華な一室だった。
にへ、と顔が崩れる。
なんだかんだ客人扱いされている。
(王様尊い……王様に会いに行こう!)
扉に手をかけた。取手が重い。
後で油差しておかなきゃと思いながら、紅蓮はグイっと押し開いた。
右見て左見て、何もわからない。
紅蓮は玉座に座る王を思い描き、跳んだ。
「……して、状況は。」
「はっ、前線は辛うじて持ち堪えておりますがジリジリと後退。援軍を出さねば数刻で城まで到達するかと。」
「アルダラは?」
「しょ、将軍は…… 休暇中であります!!!」
「……oh……」
王は額に手を当てた。部下の福利厚生は大切だ。年に一度の長期休暇システムは王自身が作った。そう、誰のせいでもない。
ただ、巡り合わせが悪かっただけだ……。
「うむ。では我が……」
王が玉座を立とうとしたその時、ぽわんと目の前に赤い影が現れた。
「王様♪」
ザワ、と広間の空気が揺れる。
「……封じておけと言ったはずだが。」
地を這うような声が広間に冷気を運んだ。
「しました!ちゃんと、二重に!」
泣きそうな側近の声が響く。紅蓮は首を傾げた。
「あ。扉すごく固いと思ったら、封印されてたんだね?良かった、油差しておいてって言おうと思ってた。」
(何一つ良くない)
広間の総意だった。
「……して、このタイミングでここに来るとは、其方やはり間諜か?」
王の底冷えた声が響く。昨日よりも更に低い声に、紅蓮はゾクゾクと震えた。
「はー、尊…… あ、いやいや。
あたしただの『魔女』ですから!」
途端、また広間がざわめいた。
紅の瞳が、ん?と周囲を見渡す。
「……あれ。何か、取り込み中だった……?」
今更ながら、広間は何やら物々しい。
軍服の者達が王を囲み、伝令が入れ替わり走っている。
「其方には関係のない事だ。大人しく部屋に戻れ。勝手に振る舞うこと罷りならん。」
ザッと兵が囲いに来る。
紅蓮は、ぽわぽわん、と空へ逃れた。その時。
「伝令!!! 前線右翼決壊しました!!!
中央、左翼、抵抗していますが包囲されつつあります!!!」
転がり込んできた声に、ザッと空気が変わる。
「出る。」
王が立ち上がった。
「行く。」
紅蓮が呼応した。
「「「は???」」」
広間の総意だった。
「ふざけるな!遊びではない!其方はすっこんでろ!!!」
紫紺の声が轟き、紅蓮は無言で手を払った。
シュン!と指輪から炎の剣が生まれる。
「一宿一飯の恩をお返しする。
————烈火の魔術師、見参。」
紅蓮は、派手に笑った。




