7 おかえり
薄曇りの朝日がふんわりと昇った。
城は新しい一日の始まりに動き出す。
厨房から湯気が立ち上り、光がふよふよと飛び回る。
そんな朝の気配を他所に、王の寝室はまだ夜の余韻に静まっていた。
執務室のホワイトボードに
「おうさま ひばん」
の文字が書かれ、その下に
「ぐれん おかえり」
と別の字が書く。
その下にアルダラが
「全員非番!」
と書き殴った。
やがて、紅蓮がモゾモゾと身じろぎをした。
深紅の瞳が、薄っすらと開く。
柔らかなマットレス。
ふわふわのブランケット。
美しい天蓋。
そしてレオンヴァルド。
紅蓮が声を押し殺して震え、レオンヴァルドにくっついた。
まだ目の開かないレオンヴァルドが口元に笑みを浮かべてその背中を撫でる。
紅蓮が腕の中からレオンヴァルドを見上げると、ようやくその目がゆるゆると開いた。
「……おはよ、レオ……」
「……おかえり、俺の魔女。」
レオンヴァルドの手が紅蓮の頬を包み、
扉がバンと開いた。
「ちょっと!いつまでグレンを独り占めしてるのよ!」
紅蓮がレオンヴァルドの腕から攫われアルダラに抱え込まれた。
「おかえり、グレン!」
アルダラの胸に埋まって、その腕をぺちぺち叩く。
「ぷは。ただいま、アルダラ。」
ニッと笑う紅蓮の周りを光がふよふよと舞い、アラクネが隣室から現れて紅蓮を強奪して行った。
ケラケラと笑いながら、アルダラがレオンヴァルドに告げる。
「宴会の準備、できてるわよー」
去る背を呆然と見送り、レオンヴァルドは空の腕を見下ろした。
もそもそとレオンヴァルドが着替えを済ませ、ドカリとソファに腰を下ろす。
組んだ腕で指がトントンし始めた頃、続き部屋の扉が開いた。
満面の笑みのアラクネ達の真ん中に、戸惑った顔の紅蓮がいた。
ゴスロリだ。
ゴスロリだった。
膝丈のドレスがパニエでふわふわだった。
黒いドレスの上に前開きのオーバードレス。
黒地に赤い薔薇が炎の波のように咲いていた。
編み上げビスチェの身頃。
腕は黒いレースの長手袋に包まれ、
同じレースが膝下を覆っていた。
ガタンとレオンヴァルドが立ち上がる。
「かわっ……」
言いかけて真っ赤に染まった。
(……このヘタレ。)
アラクネ達の総意だった。




