8 雇用契約
紅蓮はレオンヴァルドにエスコートされて広間へ進む。
広間からはすでにどんちゃん騒ぎが聞こえていた。
紅蓮が足を踏み入れる。
一瞬の静寂の後、どよめきと歓声と悲鳴、
そして口々に叫ぶ「おかえり」が広間を揺らした。
「姐御ぉぉおおお!おかえりなさい!!!」
飛びつこうとした兵士がゴスロリを見てピタリと止まった。
上から下まで二往復眺めて、顔を赤くしてすごすごと下がっていく。
レオンヴァルドが満足気に頷いた。
そこからは無礼講だった。
レオンヴァルドと紅蓮に次から次へと杯が渡される。
「すごいどんちゃん騒ぎだねぇ……」
紅蓮が笑いながら周りを眺める。
「戦勝会とお前の帰還祝いだからな」
紅蓮がぱちくりと目を瞬く。
「お前がいない戦勝会など意味がない、というのが城の総意だった。」
紅蓮がもう一度ぱちくりしてから、にへっと笑った。
「さて、では魔女殿。私と一曲踊ってくれますか?」
レオンヴァルドが戯けて膝を突き、手を差し伸べた。
紅蓮が笑いながら手を重ねる。
「喜んで。と言いたいところだけど、ステップなんて知らないよ?」
「構うものか」と言い差して、レオンヴァルドが固まった。
音が消えた。
広間が静まり返っている。
視線が刺さる。突き刺さる。
こくりと息を飲む小さな音が響いた。
「待て!違う!ダンスの申し込みだ!」
レオンヴァルドが立ち上がり、吼えた。
どよどよとざわめきが戻る。
溜息が合唱する。
「プロポーズじゃねーのかよ……」
「なぁんだ……」
「王様へたれー」「「「へたれー」」」
光が消えた。
「あーーーもう!!!」
レオンヴァルドがぐしゃりと髪を掻き上げた。
紅蓮の手を握ったまま、再び膝を突いた。
「グレン!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「お前の居場所はずっと俺の続き部屋だ。」
「……で、でもあたし……燃やすしか能がない、よ……?」
「燃やしても燃やさなくても、お前は『俺の魔女』だ。」
「……いて、良いの?」
「ずっと俺の側にいろ。推し変は認めん。」
「……ぅ……わぁぁああんっ!」
紅蓮がレオンヴァルドに飛びついた。
ガシッと抱き止め、ヒョイと抱え上げる。
広間が揺れた。
「うぉぉぉおおお!」と言う歓喜の雄叫びと
拍手喝采で。
「ヘタレ返上ー!「「「返上ー!」」」
光が舞い踊った。
人事部長が、そっと二枚の書類を差し出す。
「雇用契約満了書」並びに「婚姻届書」であった。




