4 借り
「ねー、紅蓮。魔女はさー、魔力が強いから魔女なんじゃないよ。欲しいものにちゃんと手を伸ばせるのが、魔女じゃん?」
「花、そう言う花も、ちゃんと伸ばしなよ」
二人が顔を見合わせて、ふっと笑っていた光景を、夜天は隠れ家のソファで膝を抱えて思い返す。
「欲しいものにちゃんと手を伸ばす、かぁ。」
膝にこてんと頭を預けてまぁるくなったところに、ことりとホットミルクが置かれた。
ふんわりと蜂蜜の香りがする。
「……ありがと、アスラン……」
賢者は夜色をぽんぽんしてから、向かいのソファに腰を下ろした。
自分のハーブティーに口をつけながらキナを眺める。
ふぅふぅと息を吹きかけ、こくりとミルクを飲み、蜂蜜の甘さに目を細める様を。
「……紅蓮がね、ずっと『裏』にいるのかと思ってたのに帰って来たの。けど魔力が変だったから、花ちゃんと様子を見に行ったの。」
アスランがひとつ頷く。
「紅蓮ね、『強制送還』されちゃったんだって。転移で『裏』に行ったから、次元の番人?とかって人に。」
アスランの片眉が上がった。
「でね、もう戻っちゃダメなんだって。
また転移で戻ったら、『表裏の不可侵』を乱しちゃうから、王様の呪いが発動しちゃうかもしれないんだって。
両思いなのに、もう会えないのかなぁ……」
キナの夜色が潤んだ。
「呪いだと?」
「うん。王様は呪われてるんだって。発動したら、『魔王』になっちゃうんだって……」
アスランが空色を瞬いた。
「キナ、それは『魔王プログラム』のことじゃないのか?」
キナが夜色を瞬いた。
「あの海底神殿で、『世界の管理者』が言っていただろう。『魔王は暴走するプログラム。セカイの余剰エネルギーが起こすバグ。演算済の不具合』と。」
キナの瞬きが高速になった。
「……君は魔女に覚醒する為の魔力制御の真っ最中だったからな……」
アスランが僅かに遠い目をし、気を取り直したように続ける。
「君が『世界の秩序』を書き換えた時に、消えている。プログラムも、余剰エネルギーも。」
キナがガタタっと席を立った。
アスランの襟首をむんずと掴む。
「テレポル!」
花守宅の客間に夜天は現れた。
片手に賢者を握りしめて。
賢者は床にぺたりと座り込み、空色を高速でしぱしぱしていた。
「紅蓮!呪いはもうないよ!」
「……は?」
深紅もしぱしぱした。
「管理者が消えて魔王プログラムも消えて呪いはもうないの!」
「……呪いは、ない……?」
「ああ、呪いはもう消えている。」
アスランが立ち上がろうとした。
紅蓮がツカツカと歩み寄り、アスランの襟首をむんずと掴む。
「王様ぁぁぁああああ!」
「またかぁぁぁああ!?」
二人が掻き消えた。
夜天がふぅ、と額を拭った。
「紅蓮、借りは返したよ!」
「ちょー、なんの騒ぎ……?」
ふわもこパジャマの花守に、夜天がグッと親指を立てた。




