3 魔王
「つーかそれ、紅蓮も悪いじゃーん。
あん時おーさまの魔法で帰ってたら不法入国じゃなかったんじゃん?
あんたおーさまの詠唱ぶた切ってテレポルしてたじゃんよ。」
「ぐぅっ!」
「花ちゃん……」
紅蓮が胸を押さえ、夜天が涙目で花守を見つめた。
「夜天、代わりに浄化してやったんだかんな!貸し一個だかんな!」
「わかった。今度なんか奢る……紅蓮、ありがと。」
花守がやれやれと肩を竦めた。
新しいお茶と菓子を持って来る。
サクサクと菓子を齧る三重奏が響いた。
「けど紅蓮、なんでテレポルで王様のところに戻らないの?不法入国だから?」
夜天が不思議そうに夜色を向ける。
「……うん。」
「紅蓮にしちゃずいぶん殊勝じゃーん?」
「……レオンに迷惑かけちゃうんだ。それに……
もう戦さは終わったから……雇用契約も満了だしさ」
サクサクの三重奏が再び奏でられる。
夜天がぽそりと言った。
「こっちに来た時、王様とっても大事そうに紅蓮のこと抱っこしてたよ……?」
「……二回もぺぃってされた。」
夜天がぐぅっと黙った。
「けど結局はあんたによろしくされたじゃーん」
紅蓮が黙り込む。
「……雇用契約が終わっても、推し活は永遠だよ……?」
夜天がおずおずと口を開いた。
「……ダメ、なんだ。」
紅蓮の絞り出すような呟きに、二人はじっと紅蓮を見つめた。
「……『王様』ってお仕事はね、呪われてるんだって。もしも呪いが発動したら、レオンは『魔王』になっちゃうんだって。」
二人は息を飲んだ。
「その時、レオンはあたしの敵になっちゃうから……側にいちゃ、いけないんだって……」
紅蓮がポロポロと涙を零す。
「ちょ、待って待って!前の侵略も『裏』の王様が呪いで魔王になったって事なん?」
紅蓮がこくこくと頷く。
「……呪いって、絶対発動しちゃうの……?
魔王戦から千年以上経ってるよ……?」
紅蓮が震える息を吸い込んだ。
「絶対じゃないんだって……発動条件もわかんないんだって……けど、魔王戦からこれだけ経っても、まだ位相の裂け目が残ってるだろ?」
夜天がこくりと頷く。賢者は今でも裂け目を塞ぎ、結界柱を手入れし続けている。
「だからレオンは、『表裏の不可侵』を重視してるんだ。あたしのせいでこっちに来た時も、ほんとは怖かったと思うんだ。だからあたしは、もうテレポルで帰れないんだ。レオンにいっぱい迷惑かけちゃうから……」
ポロポロと涙を零しながら、紅蓮が手首を見せる。そこに嵌っているのは、魔女になりたての頃、火事の悪夢を見ると炎を噴き上げる紅蓮に風谷が渡した、魔力抑制の腕輪だった。
「あんたそれ……なんでつけてんの……?」
「だから紅蓮の魔力が弱くなってたんだね……」
紅蓮が息を整える。
「あたしさぁ、寝惚けると跳んじゃうんだ。レオンのとこに。」
二人が紅茶を吹きかけた。
「「はぁ!?」」
「……無意識に跳んじゃう、レオンのとこに。
だから風谷の腕輪で抑えてた。」
「紅蓮それ……」
夜天は続く言葉を飲み込んだ。
飲み込んだ言葉を花守が吐いた。
「『愛』じゃーん。」
紅蓮がきょとんと目を見開いた。
「当たり前じゃん。推しへの愛だよ!」
(そうじゃない)
魔女二人の総意であった。




