1 パンパン
色彩の渦を通ると、そこはトンネルだった。
長く暗い道の向こうに光が見えた。
「オカエリハ、アチラー」
甲高い声が響いた。
紅蓮はしょもしょもと歩き出す。
長いトンネルを抜けるとそこはガルディアだった。
紅蓮の背後で門が渦を巻き内側に収束するように消える。
シトシトと降る小雨の中に「魅惑の食彩亭」が佇んでいた。
紅蓮は立ち止まり、その豪華な建物を見上げる。
「……何が食べたかったんだっけ……」
ポツリと呟き、魔女は掻き消えた。
魔女達がピクリと手を止め、夜天が「紅蓮推し変早いなぁ」と呟いた事も知らず、紅蓮は久しぶりの自室のベッドに潜り込んだ。
マットレスが硬かった。
ブランケットがゴワゴワだった。
天蓋なんて付いていなかった。
紅蓮はゴワゴワに潜り込んでキュゥと丸まった。
紅蓮が芋虫になって三日。
部屋の扉がゴンゴンと叩かれた。
ブランケットの繭からモゾモゾと深紅が這い出る。
誰何しなくてもわかる二つの魔力。
「どーぞ」
鍵を開けながら言うと遠慮なく扉が開かれた。
夜色と桃染色が深紅の目に飛び込んで来る。
「お邪魔しまーす」
花守がズカズカと部屋に入る。
ベッドとテーブル、一脚の椅子、備え付けのクローゼット。
魔女というより冒険者の仮住まいのような部屋だった。
ベッド脇の小さなサイドボードの上には齧りかけのパンと水差し。
床に黒い布地が打ち捨てられていた。
「相っ変わらず殺風景な部屋だなぁ」
花守が腰に手を当てて紅蓮を眺めた。
もしゃもしゃの癖毛。
パンパンの顔。
赤く腫れた瞼。
「着替えな紅蓮。うち行くよー」
花守が勝手にクローゼットを漁る。
夜天が打ち捨てられた軍服とマントをハンガーにかける。
花守が着替えさせ、夜天が顔を拭く。
紅蓮はパクパクと口を開いて閉じて諦めた。
パンパンの顔の人間は素直に諦めるしかないのだ。何を言い募ったって所詮パンパンなのだから。
紅蓮がモソモソと癖毛を指で梳かした。




