5 不死者
紫紺が飛び込んで来た。
銀の軌道が二閃。
足首の触手を両断し、のたくる触手共を薙ぎ払う。
飛び散った触手の欠片に亡者が群がった。
「アルダラ!」
叫びつつ紅蓮を背にドルクもどきに対峙する。
紫紺のマントが翻った。
「おやおや、とんだ邪魔が入りましたねぇ」
触手をゆらゆらと背に揺らし、ドルクもどきが頬に指を当ててゆるりと首を傾げる。
禿げた脳筋の身体で。
ぴたりと向けたはずのレオンヴァルドの切っ先が震えた。
「お前、『不死者』か。」
「御名答。」
ドルクもどきがパチパチと手を叩く。
アルダラと獣人軍団が王と魔女の壁となり、ゾンビたちを叩き斬る。
オオンオオンと亡者の怨嗟が響き、妖精が空で瞬いた。
「ですがただの『不死者』ではありませんよ?」
ドルクもどきが両手を高々と広げた。
「我こそが『不死者の王』であり、夜を恐怖の闇へと塗り替えし吸血鬼……!」
「の成れの果て。」
紫紺のマントの陰から深紅がひょっこり覗いた。
吸血鬼もどきがピシッと固まった。
「そんなハゲヤカンの筋肉着て芝居がかられても。」
深紅が追撃した。
「……ぶふ。」
紫紺の切っ先がぶれた。
吸血鬼もどきがワナワナと震え出す。
「……黙れ。黙れ黙れ黙れぇぇええ!!!
貴様らに何がわかる!身体を壊され主の気配も消え、彷徨い彷徨い狭間に落ちたこの身の何がわかると言うか!」
わかる?と紅蓮がレオンヴァルドを見上げる。
紫紺の髪がふるふると横に揺れた。
「……とにかく!狭間で亡者を啜り!我が高貴なる紫色は見る影もなく濁り!それでも泥を這いずるように!やっとこの筋肉を手に入れたのだ!」
吸血鬼もどきが、はたりと口を閉じた。
そしてその口がニィっと吊り上がる。
「……なるほど、なるほど、そうでした。
着替えてしまえば良いのです。」
濁った眼窩がひたりとレオンヴァルドを捉える。
「良い、実に良い……。
その美しい紫紺のお身体、不死者の王の肉にして差し上げましょう……そしてわたくしの身体を潰したクソ忌々しい魔女の血を、今度こそ我が物に……!」
触手がレオンヴァルドに殺到した。
「だが断る。」
二振りの剣が触手を斬り飛ばす。
「我はすでに王なのでな。」
レオンヴァルドの瞳に剣呑な光が宿る。
紫紺の陽炎が揺らめき立った。
吸血鬼もどきがぐぬぬと歯噛みをする。
その横で紅蓮がぶつぶつと呟いていた。
「クソ忌々しい魔女……吸血鬼……」
ハッと目を見開く。
「夜天のことか———っ!」
吸血鬼もどきがコクコクと頷いた。




