4 亡者
弾かれたように紫紺と深紅が向いた先で、剣戟の音が空気を裂いた。
アルダラとその脳筋軍団が、ゾンビ達の最後尾を務めていた鬼人族と切り結んでいる。
レオンヴァルドと肩を並べる長身が、更に頭ひとつ大きい鬼人の刃を弾き飛ばす。
どちらの口元にも不敵な笑みが浮かんでいた。
まさに脳筋だった。
が、ゾンビには脳も筋もなかった。
魔力持ちのアルダラ目掛けわらわらと押し寄せる。
鬼人と鍔迫り合いをしているアルダラがゾンビの波に飲まれかけた。
「【イグニス・フルクトゥス(波濤の烈火)】!」
紅蓮が咄嗟に炎を使った。
地を這う炎の波がゾンビ達を飲み込んでいく。
紅蓮が手を振ると炎は自在に波打ちうねり、アルダラの周囲を焼いていった。
「グレン!」
レオンヴァルドが叫んだ。
魔力にゾンビが押し寄せる。
紅蓮が上空に逃れる。
地上から無数の腕が紅蓮に向かって伸び、
空を掻き毟る。
紅蓮がにやりと笑った。
「ゾンビ大行進といこうじゃないか。」
紅蓮が煽るように高度を下げ、鬼人と相対している脳筋達からゾンビを引き剥がし、燃やし、飛んだ。
その下をゾンビ達がズルズルと行進する。
届かないものに手を伸ばしながら。
ゾンビを引き連れた紅蓮が、はたりと空で止まった。
「ォォォン、ォォオン」
微かに聞こえた声が、次第に重なり響く。
灰の中から、むくり、むくり、影が立ち上った。
「オォオオオン」
宿主を失った、亡者の怨嗟が戦場に満ちた。
光たちが息を飲む音がさざめいた。
ザワ、と背筋に悪寒が走る。
反射で高く舞い上がる。
その足首に、ドロリと濁った触手が絡みついた。
産毛が逆立ちブワッと鳥肌が立つ。
「いぎゃぁあああ!」
紅蓮の悲鳴が尾を引きそのまま地面に叩きつけられる。
口の中に血の味がした。
「おやおや、ずいぶん派手に燃やしてくれましたねぇ?私の可愛い部下達を。」
目の前にドルクが立っていた。
眼窩の奥に濁った汚ったない色が蠢いていた。
「ドルクだったもの」だった。
「良い、実に良い。煮え滾る魔力の芳しい香りがしますよ?お嬢さん」
「キモっ!」
叫んだ紅蓮の口の端から、一筋の赤が溢れた。
ドルクもどきが眼球のない目を細める。
「貴女もわたくしの『部下』にして差し上げましょう。苦しみも悲しみもない、幸せな『お人形』に。」
「キモっっっ!!!」
ドルクもどきがニィっと笑った。
「その代わり……その極上の血を、魔力を、わたくしに啜らせてくださいなァァァッ!」
ドルクもどきからブワリと溢れた魔力が無数の触手のように紅蓮目掛けてのたくった。
「キモぉぉぉおおおっ!!!」
紅蓮からもブワリと魔力が溢れ、轟と燃え上がる。
炎が足首の触手にズルリと飲み込まれる。
ドルクもどきがぞろりと舌舐めずりをした。




