3 ゾンビ
戦場が凍りついたように静まり返った。
目の前にいるのは反乱軍だった。
両手をダラリと下げ、足を引き摺って歩くそれらは、確かに反乱軍の軍服を纏っていた。
けれどその眼窩には光がない。
ただの落ち窪んだ闇だ。
ヒッと誰かが息を飲んだ音がした。
「構え!」
再度の号令が響き渡った。
ジャキンと剣が鳴る。
「突撃!」
「おぉおおおお!」
紅蓮も雄叫びをあげて馬を駆る。
反乱軍を蹴散らかしながら、紅蓮は舌打ちをした。
蹴散らしても蹴散らしても、反乱軍の兵達は散開もしなければ退散もしない。
むくりと起き上がり目の前の紅蓮に再び群がってくる。
紅蓮は馬上から喉笛に剣を突き立てた。力任せに引き抜くと首が半分千切れた。
今日は炎を纏わせていない、ただの剣だ。
なのに血飛沫が上がらない。
紅蓮は自分の喉が引き攣り、ヒッと音を鳴らすのを聞いた。
血飛沫の代わりに、黒い影が千切れ傾がった首を繋ぎ止めた。雑に。
首が45度捻れたまま、兵は再び紅蓮へと手を伸ばす。
その眼窩の奥に、同じ影が蠢いていた。
戦場のあちらこちらで悲鳴があがる。
王国軍の悲鳴だった。
見渡すと、足が左右逆に付いた者、腰から上下が捻れた者、頭のあった場所に影が蟠る者達が、目の前の王国軍に手を伸ばし群がっている。
斬っても斬っても、その身体が歪になっていくだけだった。
「ぎゃぁああああ!」と断末魔のような悲鳴があがる。
目をやると魔力持ちの一人がゾンビの波に飲まれていた。
馬の腹を蹴って群がるゾンビを蹴散らす。
真っ青になってガタガタと震える兵を馬上に引っ張り上げた。
「魔力持ちは退け!最後尾に撤退!」
レオンヴァルドの声が轟いた。
後方へ逃れる波に兵士を預け、紅蓮はレオンヴァルドの元へと馬を走らせる。
「亡者だ。」
近づく紅蓮に硬い声が告げた。
「だがこんな……人に寄生するなど……」
戦場を見渡しながら、レオンヴァルドは呆然と首を振った。
「グレン、お前も撤退しろ。もう『魔力を発動する』事がトリガーではない。奴らは魔力持ちを識別している。」
「レオンとアルダラは?」
「王と将軍が撤退するわけにはいかんだろう」
「じゃあ私も残る。」
紅蓮が馬を操り群がるゾンビを再び蹴散らす。
「けどレオン、こいつら切りがない。殺せない!」
レオンヴァルドがぐっと唇を引き結んだ時、離れた場所から初めて戦場らしい音が聞こえた。




