2 進軍
王国軍は闇の中を進軍した。
ヴェールをかぶったような朧月だけが、薄明りを落としていた。
先頭は夜目の効く獣人達だった。
相変わらず速かった。
その背中を目印に他の獣人軍団と騎兵が疾走する。
紅蓮もまた、レオンヴァルドに並んで馬を駆っていた。
道中で妖精達がどんどん増えていった。
木々の間から、草叢から、花弁の中から、
次々と現れては合流する。
やがて空から一つの影が舞い降り、レオンヴァルドに並んで飛んだ。
梟の獣人だった。
「敵影確認!およそ十五分後に接敵します!」
王が頷く。
「敵の様子は?」
「砦の伝令の言った通りです。およそ兵士らしからぬ動きで、覇気も感じられません。ただただ前進している……そんな感じです」
「……相分かった。ご苦労。」
「勿体無きお言葉。」
梟が飛び去る。
そして王の低音美声が響き渡った。
「進軍やめ!ここで迎え撃つ。横陣を張れ!」
紅蓮は思った。眼福ならぬ耳福である、と。
「レオン。敵兵さん、操られてるかもしれない?」
レオンヴァルドが紅蓮を見る。
紅蓮は思った。眼福であり耳福であった、と。
「やはりそう思うよな。可能性は高い、か。
もしそうだとして、どんな状態でどう操られているのかが問題だ。」
紅蓮がこくりと頷いた。
風が吹き雲が流れた。
けれど月はヴェールを纏ったままだった。
この「裏」の世界は何故かいつも薄曇りだ。
そして遠くから土を踏む足音が響いてきた。
軍靴の規則正しいリズムではなかった。
「敵影目視可能です!距離一千!」
「三百まで引きつける。」
紅蓮の喉がコクリと鳴った。
「怖いか?」
レオンヴァルドの問いかけに、深紅の頭が頷いた。
「魔女が魔法なしで戦うなんて、驚天動地で古今未曾有じゃない?」
「魔法がなくてもお前は俺の『魔女』だ。
いつも通りぶっ飛んで行けばいい」
レオンヴァルドがニヤリと笑った。
紅蓮がぱちくりと目を瞬く。
そして、倣うように口の端を持ち上げた。
「あいあい♪」
「目標三百!」
響いた声に王が前を向く。
「総員構え!」
剣を抜く硬質な音が重なり響く。
「妖精族は敵上空に待機!」
微かな羽音が遠ざかって行く。
「目標百!」
「点灯!」
小さな星が次々に空に灯る。
柔かな金色が空を埋めて瞬く。
そこに照らし出されたのは、「生ける屍」達だった。




