6 真空パック
「ひょほほ、まったく手のかかる娘じゃわい。」
風谷が両手を広げると風が巻き起こった。
指を立て、くるんくるんと回すと、風が炎を巻き込んで紅蓮へと巻き付いていく。
「ほーれほれほれ、ちゃんと収めんと塵になるぞい?飲み込め飲み込め、ひょほほ」
「ぐぬぬ……!」
あの日と同じだった。
紅蓮が魔力を暴走させ魔女になったあの日と。
「ひょほほ」さえ同じだった。殺意が湧いた。
紅蓮は歯噛みをしながら必死に炎をその身に飲み込んだ。
「だから言ったんじゃ。魔力制御の訓練をしておけと。」
「だってこっちで全力出せる事なんてなかったもん!」
「言い訳無用じゃ」
最後の炎が紅蓮の身に帰った。
ばふん!と風が紅蓮を密封した。真空パックだった。長期保存可能だった。けれど息はできなかった。保存の前に召されると思った。
「おい!息してないぞ!?」
「死なん死なん。ちぃと安定させとるだけじゃ。空気がなきゃあ燃えられんじゃろ?」
科学的根拠があった。けれど魔術的根拠ではなかった。紅蓮が白目を剥いた。「ひょほ」と聞こえて風が解けた。
「グレン!」
レオンヴァルドが駆け寄り抱き寄せようとしたその脇を、一陣の風が吹き抜けた。いや、灰色の魔女だった。見た目に似合わず俊敏だった。
「こんの、馬鹿娘ぇぇぇえええ!」
ごちんと音がして紅蓮が頭を抱えた。
「暴力はんたーい……」
「やかましい!ワルプルギスをサボるなんざ魔女の風上にも置けないよ!」
「だってちょっと『裏』に迷い込んじゃってて……」
「宵森の『光』が届いたのだ。転移で戻れただろう。」
「わぁっ!迷宮!シーっ!シーっ!」
レオンヴァルドがジロリと睨んだ。
紅蓮がきゅぅと身を縮めた。
「帰り方がわからない、と言うのは嘘か。」
美声が一際低音になった。
紅蓮が「はぅっ!」と胸を押さえた。
「うわぁ……紅蓮ブレないのなー?イケボにやられて帰りたくなかったってわけー?」
「うっさい花守!」
「紅蓮も美しいもの好き同好会だね!」
「あたしは夜天みたいに見境なくないから!
イケメンとイケボ限定だから!」
「ぐはっ!」そのセリフはなぜか夜天に効いた。
「ぐふっ!」流れ弾はレオンヴァルドに効いた。
負傷者二名を尻目に、琥珀色の魔女が口を開いた。
「紅蓮、お前はもう座標で跳ぶな。」
「迷宮!たまにだよ!?たまに計算間違うだけだよ!?」
「計算間違いで『裏』に迷い込む者などお前だけだ。夜天を見習え。端から座標を諦めている。」
「夜天は座標じゃイメージできないからだろ!?たまに計算間違うのと一緒にしないで!!!」
「ぐはっ!」再び夜天が被弾する。
「迷宮の言う通りよ?紅蓮、夜天の潔さを見習いなさいな。」
「祈りまで……」
紅蓮が涙目になった。
夜天は瀕死だった。
「……グレンも元気になったようだし、我はこれで失礼しよう」
レオンヴァルドが最後まで言えた。




