4 魔女
レオンヴァルドは歩いた。
光の方へ。
時折、紅蓮がむにゃむにゃ言っては薄目を開け、再び「スヤァ」するのを無言で眺めながらレオンヴァルドは歩く。
それがレオンヴァルドにとって、たった一つの冴えたやり方だったから。
やがてぽっかりと眩しく開いた穴から、レオンヴァルドは地面へ降り立った。
猫を撫でていた夜天の手が止まった。
つけまつ毛をつけていた花守の手が止まった。
ダンジョンコアを愛でていた迷宮の手が止まった。
触媒を調合していた宵森の手が止まった。
聖句を書いていた祈りの手が止まった。
ロッキングチェアで居眠りをしていた風谷の鼻提灯が割れた。
そして次の瞬間、宵森が机を叩き立ち上がった。
(……紅蓮逃げて……)
夜天は思った。
レオンヴァルドの背後で、内側に吸い込まれる様に、音もなく穴が収束した。
紫紺の髪を撫でる風が、潮の香りを孕んでいた。なるほど、海沿いには結界柱がない。
さすが門の番人はわかっているなと感心しつつも、ここがどこなのかはわからなかった。
「グレン!グレン!起きよ!」
「……王様……!?……スヤァ……」
「「グレーーーーーーン!!!」」
叫んだ声が、なぜか二重奏に聞こえた。
「は?」
「え?」
紫紺と灰色の目が合った。
そこには、灰色のローブを身に纏った老婆が立っていた。頭から湯気が出そうに、顔を真っ赤に怒らせて。
レオンヴァルドの脳裏に、ふとドルクの面影が浮かんだ。
老婆が腰に手を当ててタンタンと足を鳴らす。
「ちょいと!あんた何者だい!?」
「わ、我は……」
「この小娘はなんでそこで寝てるんだい!」
「あ、いや、これは……」
「説教してやろうと思ったのにこれじゃできないじゃないか!」
「そ、それは我のせいでは……」
「とっとと起きな、小娘!!!」
それは激しく同意だった。
レオンヴァルドは遥か遠い目をした。
遠い目をして思った。
ここで怯んではならない。
なぜ自分はわざわざ「表」まで来たのか。
その使命を果たさねばならぬ。
頑張れレオンヴァルド。
「そ、其方は魔女!「紅蓮寝てるー、ウケるー」
「我は魔女に!「コスプレ!?美しい……」
「いや、魔女!「魔力が乱れている。」
「だから魔女!「『裏』の方かしら……?」
レオンヴァルドは囲まれた。
次々に現れた桃染と夜色と琥珀と白に。
バッと最後の声の主を見た。
白い魔女だった。
「そうだ。『裏』からこの娘を連れて来た。
何故其方にはそれがわかった……?」
やっと、やっと最後まで話せた……
レオンヴァルドはグッと拳を握った。
白い魔女は、小さく笑んで小首を傾げた。
レオンヴァルドは白い魔女を見つめ、その答えを待った。二人の視線が交差したまま、静かな時間が……流れなかった。
「それは何のキャラクターのコスプレですか?」
夜色の魔女が目をキラキラさせてレオンヴァルドを見上げていた。
「いやコスプレでは「てゆーかぁ、なんでレイヤーさんが紅蓮抱っこしてるのー?」
「いやレイヤーでは「なぜ紅蓮の魔力が乱れているのだ?」
「……俺の話を聞けぇぇぇえええええ!!!」
レオンヴァルドが吼えた。




