3 悟り
「起きた!グレンが起きた!」
王が現れた途端、医務室が慌ただしくなった。
「バイタルチェック!」
「体温、呼吸、脈拍、血圧、全て異常!」
「意識レベル2!呼びかけると目が覚めますが『王様尊い』と譫言が続いています!」
「……もう良い……」
レオンヴァルドは立ち上がった。
医務室を出た。
レオンヴァルドは悟った。
悟ってしまったのだ。
このハグから解放されなければ何一つ解決しないのだと。
「アルダラ!アルダラはいるか!」
ツカツカと軍部の廊下へ進み、声を張る。
鳴る軍靴、翻る紫紺のマント。
但し腕には紅蓮の魔女だ。
「何よ、レオ、うるさいわねぇ」
扉の一つがバタンと開き、アルダラが顔を出した。
「これから『表』に行く」
アルダラがスッと片眉を上げた。
「一度目が覚めた。また『スヤァ』した。」
「あー……」
アルダラが納得顔で頷いた。
ずっと寝ているならまだ良い。
だが、覚醒とスヤァを繰り返されては、さすがのレオンヴァルドも明日まで耐えられないだろう。
「留守は守ります。無事のご帰還を。」
話の早い右腕だった。
レオンヴァルドは私室へ向かった。
着替えたかった、とても。
こんな真っ黒の軍服に紫紺のマントを靡かせて「表」に行った日にはどこのコスプレイヤーかと思われる。
しかし、涙を飲んで諦めた。
「半分意識の戻った紅蓮片手に着替えること」を。
そしてレオンヴァルドは財布だけを握りしめて玉座の間へ向かった。
玉座へ向かい、レオンヴァルドは立つ。
「לִפְתּוֹחַ」
一言告げると空にぽっかりと扉が現れる。「スタッフオンリー」と書かれた掛札が揺れて扉は音もなく開いた。
レオンヴァルドが身を滑り込ませると扉は勝手に閉じる。そこに広がる重苦しい空間で、王は詠った。
「王の名に刻まれし
古き盟約において命じる
門の番人よ
次元の番人よ
位相を護り
点と点を正せ
束の間の眠りから目覚め、
我が道を示せ」
重苦しい、先も見通せない空間の奥で何かが蠢いた。
空間自体が切り取られ動き出したかのように、
その輪郭さえ定かではない。ギョロリと大きな目だけが一つ、浮かび上がる。
その目が、レオンヴァルドを捉えた。
「ドチラマデ?」
甲高い声が響いた。
「『表』まで、片道で」
のっそりとレオンヴァルドの前に現れたその姿は、黒く輪郭の崩れた細長い体躯に、大きな目玉だけが一つ乗っていた。
目玉は細く黒い手の平をレオンヴァルドに差し出す。レオンヴァルドはゴソゴソとポケットを弄ると紫紺の魔石を二つその手の平に乗せた。
「二メイサマ、カタミチ、オモテイキ」
目玉は細く形の崩れた指で一点を指し示す。
その先でありとあらゆる色彩を巻き込んだ様な渦が生まれ、収束した。
そこには一本の道が生まれ、遥か先に光が差している。
レオンヴァルドは光を目指し歩き出す。
「帰りは門を開く。よろしく頼む。」
「マイドアリー」
目玉は空間に溶けて消えた。




