2 尊死
そして午後、レオンヴァルドは紅蓮を抱えながら執務室でカリカリとサインに勤しんだ。
「この予算は数字がおかしいのではないか?」
「担当部署に確認して参ります。」
片手でせっせと書類を捌く王に、驚く者はもういない。
やがて午後の休憩の時間。
メイドさんが運んで来たお茶と菓子を口にしながら皆が談笑する中、一人片手で書類と戦う王の姿があった。
明日からの「表遠征」に向け、前倒しに次ぐ前倒しの業務であった。
この国のピュアホワイトが唯一適用されない存在。
それがレオンヴァルドである。
「おい、この第四砦の人員配置だが。」
「あ、すみません、今休憩中なんでー」
レオンヴァルドがガリガリと紫紺を掻き毟る。
その時、腕の中で何かが動いた。
——遠くにざわめきが聞こえた。
暗い水底からゆらゆらと浮上して行く様な感覚に、紅蓮は思った。
(あれこれ転生したらなんとかでした案件?)
いや、違う。そうだ、自分は「還らなかった」のだと思い出す。
あの時レオンヴァルドの手が伸びて来て……
ポカリと目が開いた。
右見て左見てもう一度右を見た。
ざわめきが途絶え、二十四の瞳と目が合った。
もう一度左。
黒い。
息を呑む音が聞こえて上を見た。
深紅と紫紺の、目が合った。
(なーんだ、黒いの王様の服かー)
思ってから理解する。
(あれこれ目が覚めたら推しのハグだった案件じゃね?)
紅蓮はそっと目を閉じ……
「起きろぉぉぉぉおおお!」
レオンヴァルドの絶叫が響いた。
「無理です推しのハグとか尊死案件です」
「生きろぉぉぉぉおおお!」
レオンヴァルドの懇願が響いた。
執務室の総意であった。
叫んでいる場合ではない、医務室だ!
レオンヴァルドの理性が叫んだ。
紅蓮を抱えたまま、ガタタッ!と席を立つ。
「ひゃぁぁぁあああ!?」
紅蓮が素っ頓狂な声と共に踠き、レオンヴァルドの腕から転げ落ちる。
ころころと床に転がって、ボワっと炎を噴き出した。
「「「Noooooooo!!!」」」
レオンヴァルドがガシッと抱え込む。
消火成功である。
二十四の瞳が王の迅速なハグに感謝する。
「……スヤァ……」
紅蓮が尊死する。
「ああもうくそっ!!!」
レオンヴァルドは医務室へ跳んだ。




