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紅蓮の魔女  作者: 宵宮 詠
第4章
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23/25

4 脳筋

紅蓮の魔女第4章4


4 脳筋


「【イグニス・ウインクラ(縛鎖ばくさの烈火)】」


紅蓮は炎を重ね掛けした。

けれどドルクの動きは止まらない。


「はぁぁぁぁあああっ!!!」


気合いを入れると黒い魔力と共に筋肉がムキムキと盛り上がる。汗と共にボタンが弾け飛び、その豊満な胸元が露わになった。


「暑苦しいんじゃぁぁぁあああっ!」


紅蓮が負けじと叫んだ。

叫びながら紅蓮自身から炎が噴き上がる。


「暑いのはこっちじゃぁぁぁあああっ!」


ドルクが叫んだ。

やっぱ暑いんじゃん、と紅蓮は思った。


それはもう剣戟けんげきではなかった。

ただの力比べだった。

ドルクの魔力が膨れ上がると紅蓮の足が地面にめり込む。

紅蓮の魔力が膨れ上がるとドルクの全身から汗が噴き出す。


「まだまだぁっ!「暑い」を「熱い」にしてやんよ!!!」


深紅の髪が金色に変わるのではないかと思うほどの魔力の噴出だった。

遂にドルクの顔が歪む。

紅蓮がにやりと笑ったその時、

ぶわりと全身が総毛立った。


紅蓮は思わず後方へ大きく跳んだ。

地面から何色ともつかない濁った魔力が触手のように伸びる。


「困ったお人ですねぇ……」


喉奥で嗤う様な声がねっとりと響いた。

プシュゥと湯気を立てて倒れ込むドルクを、ドロリと濁った魔力が攫う。ドルクはまるで底なし沼に沈む様に、とぷんと地に消えた。


紅蓮はぞくぞくとする悪寒を感じながらその様を眺めた。そして、ぶるりと一度身を震わせて、燃えながら飛んだ。


次にする事は、「死なせないこと」だ。

一人でも多く生きて帰す。

紅蓮はバルコニーに凭れた王の横顔を思い出しながら、火の玉の様に空を切った。


入り乱れた戦線の上から叫ぶ。


「退け!ドルクは退却した!退けぇ!」


退いていく者達はそのままに、なおも国王軍に追撃を掛けようとする者達に火球を投げる。


「【イグニス・フィニス(境界の烈火)】」


両軍が別れた境に線を引く様に炎が走る。

深追いをして取り残された反乱軍を、国王軍が数の利で殲滅していく。


長く延びた戦線を炎をたなびかせて飛ぶ。

幾度も同じ事を繰り返し、やがて地に降り立った時、そこにはもう、誰もいなかった。


「……終わった……」


紅蓮は大きく息を吐いた。

マントが焼けて首元に引っ掛かっている。


「だから長いのは駄目って言ったのに。ひらひらすると制御下に置いとけないんだよねぇ。」


アラクネごめん、と思いながらボタンを外す。

その指が未だ炎を纏っている事に気がついた。

あれ?と首を捻って収束させる。

もう一度首を捻った。

炎が、収まらない。


「あれぇ……やっちゃったかなぁ……」


手の輪郭に沿って揺らめく炎を見ながら、

初めて魔力暴走を起こした時を思い出した。


結界柱に守られた街のはずだった。

けれどある日魔物が押し寄せたのだ。

紅蓮と弟妹だけの家に火が回った。

外には魔物、内には火。


紅蓮は幼い弟妹をきつく抱きしめ思った。

私が守らなくちゃ。

思った時、紅蓮から炎が噴き上がった。


押し寄せる炎を、渦を巻く炎が押し返す。

弟妹を焼かぬよう、紅蓮は抱きしめる腕に力を込めた。なぜ自分から炎が生まれているのかは、わからなかった。


(ああ、あの頃私は、「紅蓮」じゃなかったな。)


懐かしい名を、思い出した。








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