3 跳べ
紅蓮の魔女第4章3
3 跳べ
紅蓮の通った後に血は流れなかった。
灼熱の刃に焼かれて。
視界が開けた。
今や王とドルクは馬を降り刃を交えている。
敵の魔導士が一人、斬り結ぶ二人に向けて詠唱を始める。
紅蓮は躊躇う事なくその首を薙いだ。
ギン!と火花の散るような音がして、王とドルクの剣が拮抗する。
王の紫紺とドルクの黒が刃から立ち昇る。
紅蓮は助太刀すべく剣を構えた。
ドルクの背後に出ようとしたその時に
アルダラの姿を捉える。
誰よりも速く、その脚力で戦場を駆けてくる。
付き従うのは黒豹獣人のみだった。
紅蓮はドルクに視線を戻した。
ドルクがアルダラを見て嗤った。
レオンヴァルドの視線がドルクに釣られた。
黒豹がアルダラの背に剣を振りかぶる。
ドルクがレオンヴァルドの剣を跳ね上げた。
紅蓮が跳ぶ。
目の端に倒れるアルダラが映る。
「レオン跳べ!!!」
叫びながら、空でドルクの刃を止めた。
レオンヴァルドが掻き消える。
ドルクの刃に押され、紅蓮が地に足を着けた。
黒豹が紫紺に斬り伏せられる。
「救護班!!!」
レオンヴァルドの声が響く。
紅蓮の身体からぶわりと深紅が膨れ上がる。
ドルクの膂力を魔力で受けながら紅蓮は叫んだ。
「レオン城へ!死なせるな!!!」
一拍の無言。
「跳べ!!!」
レオンヴァルドがアルダラを抱いて消えた。
紅蓮の剣から轟と炎が上がった。
ドルクは虚を突かれたように一足退いた。
その瞬間を紅蓮は逃さずドルクの刃を跳ね上げる。
炎が赤い軌道を描いてドルクの腹を薙ぐ。
するり、と剣が滑った。
目を見開くも、紅蓮は己に止まるなと命じる。
滑った剣筋のままにドルクの背後へ駆け抜けた。
その残像にドルクの剣が振り下ろされ、切先が地面を抉る鈍い音が響いた。
くるりと向き直ると、ドルクと正面から相対した。
(ヤカンもなかなか速いじゃないか。)
深紅を細めて剣を構える。
剣が滑った。障壁ならばぶつかるはずだ。
紅蓮はドルクに切先を向けながら考える。
対峙する二人の周りに人影はない。
「【イグニス・アルデンス(赫く烈火)】!」
ドルクの足元から閃光にも似た眩い炎が噴き上がった。
が、ドルクはにやりと笑って紅蓮へと踏み込む。襲い来る黒い刃をいなし、返す刀をドルクに叩きつける。
するりと滑る同じ手応え。
紅蓮は炎にちらりと視線を向ける。
ドルクが剣を振り下ろす。
紅蓮が受ける。
勢いに、足元の土がザザッと抉れる。
その間に炎がうねりドルクの身体を絡め取る。
けれどドルクはギリギリと押して来る。
が、その額にはドッと汗が吹き出していた。
焼けない。けれど熱は防ぎきれていない。
紅蓮の眉がスッと上がった。
——身体強化だ。脳筋の身体強化だ。
紅蓮は笑った。
(脳筋の身体強化と魔女の炎、真っ向勝負だ!)
魔女も脳筋だった。




