1 おこりんぼ
「罠が不発だった。という事はドルクはブチ切れる。」
昨日のレオンヴァルドの予言が当たった。
最前線の砦から魔力通信が入る。
「敵影を確認。およそ二時間後に接敵予定。」
紅蓮とアルダラが玉座の前に並ぶ。
「まさか昨日の今日とはねぇ。」
「あまり驚きはないがな。」
「おこりんぼさんなんだねぇ……。」
三者三様に軽く溜息を吐いた後、
「アルダラは歩兵を、我は騎兵を率いる。グレン、其方は我と共に参れ。」
「「はっ」」
レオンヴァルドの声に二人は膝を突いた。
「転移で行かないんだねぇ。」
整列した兵達を眺め紅蓮が口にする。
レオンヴァルドが隣で答える。
「二時間あれば跳ばずとも間に合う。
これだけの数を跳ばすとなると魔力も馬鹿にならん。温存だ」
そして兵が動き出すと、紅蓮はその言葉の意味を知った。
速い。
歩兵の大半が獣人族であるからだろう。
騎兵隊の前を砂埃を上げて疾走して行く。
紅蓮は王の馬の斜め上を飛行しながら舌を巻いた。
そんな紅蓮を見て王が笑う。
「あのアルダラに鍛えられているんだぞ?」
「……王様直属にしてくれてありがと……」
レオンヴァルドは更に肩を揺らした。
やがて砂埃の向こうに、居並ぶ兵達の影が浮かぶ。城からの一団がそこに合流した。
王が指示を飛ばす。砦組はそれで一個連隊を組むらしい。王は鶴翼の陣を命じた。V字型に並んだ歩兵の隊列。その両翼に騎兵が配置される。最深部、V字の角には王と近衛が控えた。
紅蓮はなるほど、と思った。
「もしかして、ドルクさんが顔真っ赤にして先陣切って駆けてくる?」
レオンヴァルドは頷く。
「あいつならおそらく。」
「ちょっと楽しみになってきた。」
紅蓮は王の予言が当たるのをワクワクして待った。そこに低い美声が告げる。
「グレンは遊撃だ。我の傍にいる必要はない。味方だけ焼かなければ好きに動け。」
紅蓮は胸がキュンとした。王の信頼に応えよう、推しの為に働こう。グッと握り拳を作る。
そして、「あ。」と小さく声を上げ、指先に深紅の魔法の光球を作り出す。
「王様、これ持ってて。」
言えば光球はふよんと王の元へと飛んで行く。
「それ通信用。呼べばすぐ駆けつける。迷った時には指示を仰ぐよ。」
「相分かった。」
王はその光を少し迷って肩口に乗せた。
ぐるぐると腕を回しても光は王にぴったりと寄り添っている。
「便利なものだな。同じような通信は出来るがこのように保持は出来ん。」
紅蓮はもじもじした。
褒められた事。
そして深紅が王を彩っている事に。
「ところでグレン。この色違いを、其方握り潰していなかったか?」
「……」
紅蓮は甘酸っぱい気分から現実に叩き戻された。そしてそっと目を逸らす。
王は深い溜息を吐いた。
「まあ良い。追求は後だ。
……グレン、前回とは異なる。魔導士もいれば魔導砲もあるはずだ。安易に飛ぶなよ?」
「……はい。」
素直にこくりと頷いた。後の追求の為である。
「敵影、目視可能です!!!」
そこに声が響く。
紅蓮は王を見る。
王はひとつ頷き返し
「全軍陣形を整えろ!前進!」




