6 アルダラ
王は夜着のボタンに手をかけた。
一つ、二つと外していくと、どこからともなく小さな光がふよふよと王の着替えを運んでくる。
「良いと言っているであろう」
「王様のお手伝いするー!」「「「するー!」」」
光が唱和すると、王の口元が柔らかく解ける。
「ぐはっ……!」
微笑みにやられた声の主に、ギギギっと紫紺が当てられる。
「なぜまだそこにいる。見ればわかるだろう?
着替えてるだろう!?出てけ!!!」
「だって、執務室まで一緒に行くのかと思って
待ってたのに…… あーーーーー!!」
王様ーーー!と今生の別れのように叫び手を伸ばす紅蓮を、扉から現れた有能な侍従達が引き摺って行った。
王の深い溜息が落ちた。
「待たせたな」
一言告げて、王は執務室に入った。
後ろからしょもしょもと、深紅の頭が付き従う。
「非番にお時間、申し訳ございません。」
椅子に腰を下ろしていた人物が立ち上がり、艶やかな声を発する。紅蓮はその声に、王の背中からひょっこり顔を覗かせる。が、声の主の顔はフードの奥でよく見えない。
「良い。我の非番など……。して、何があった。」
王は一瞬遠い目をしながらも問いかける。
その人物は、王に真っ直ぐ向き直り、外套を脱ぎ去った。紫紺と深紅が、目を見開く。
脱ぎ去ったフードから背に流れ落ちる黒髪。
旅装束の上からでもわかる、しなやかな筋肉と完璧な曲線美。
床に伸びる、翡翠のような鱗を纏った尾。
そして、竜人族の証である枝分かれした角は。
「アルダラ。その角は。」
王の鋭い声に、アルダラに見惚れていた紅蓮が意識を引き戻す。
角が一本欠けたアルダラは、片膝をついた。
「申し上げます。竜人族は……反乱軍と不可侵協定を結びました。わたくしは一族を離れ、戻って参った次第です。」
アルダラは、切り落とされた角を王に捧げた。
それは、竜人の一族を追放された証だった。
王が一瞬言葉を失い、伏せた瞼を震わせるのを紅蓮は見た。
そして、ぐっと奥歯を噛み締めたのも。
「……良く、戻った。其方の覚悟、しかと受け取ろう。」
王が角を受け取ると、アルダラは深く頭を下げる。豊かな黒髪が王の足元を掃いた。




