十四話
…
……
「んじゃんじゃ、メリル救出作戦! おっぱっじめーーーっ、イエイ」
アガスティアは手に持つ長い棒。その先に括り付けたスマホに向かって、元気よくそう言った。
現在、ククリカ達九名は。
イエサル・ランピュール・クロンダイル二世の古墳入り口前に来ている。
大昔の術理探索型王国国王の墳墓であるが、もはや観光地化しているだけあって、出店が多く軒を連ね。
時刻はすでに夕暮れ時に差し掛かるといった所だが、行き交う人々はゆうに数百を越え、王都の中心よりも活気があると言って良いだろう。
「今日はあたし達、紅蓮の暁旅団とコラボしてくれる素敵なスペシャルゲストを呼んでるの。ちゃちゃっと紹介するから、みんな良く聞くのよ、いいっ?」
長い棒の先にくっついたスマホを、順繰りにメンバーに向けていくアガスティア。
「ここら辺はみんなご存知、いつメンねー」
ベルートからダスタニャン、他三人にカメラを向けてざっと流す。彼らは一様に「やぁ」とか「おおう!」とか、軽く挨拶。
「で、こっからがスペシャルゲスト! まずは前衛、ハヤブサのロイ!」
勝手に二つ名を付けられて紹介されたロイ(しかもポジションも前衛にされている)は、慣れない様子でカッコつけた決めポーズで「はい、私がハヤブサのロイ」などと、棒読みで薄らニヤけた。
「めっちゃ速いの! 今日のプリファイアでの配信見てた人なら分かるでしょ?」
アガスティアはそこからスマホの画面に顔を近づけ、何やらそこに流れているらしい文字を読む。「そうそう、あたしを守ってくれたのよ。え? ニヤけヅラが気持ち悪い?」プフッ、ウケるっ。
まぁまぁ、そんじゃお次ねー。と、今度はスマホをニャームゥへと向けた。
「はいこちら、今度は可愛らしいタンスキンブロンド少女枠。魔導士見習いニャー!」
スマホを向けられたニャームゥは恥ずかしそうに「はぁ〜、いやぁ、よ、よろしくお願いしますぅ」と、ぺこりとお辞儀する。
「めっちゃかわいいー! 名前ね。ニャー。でも、魔導士見習いにゃー、って可愛くない可愛くない? あ、は? おいマジ、コメ欄にキモい事書くなよお前ら。ハァハァじゃねぇよ。ちょっとこの『パリンパリン』って奴、後で投げ銭の刑な。じゃなきゃブロックするから」
ほんで三人目はー。と、ククリカへとスマホを向ける。
しかしククリカはフードを目深に被って、カメラから顔を背けた。
「なんとお色気ボイン姉様担当。白魔導士のプルリオねぇさんだよー! こっちは合法だから、お前らいくらでも妄想してオッケー。自由に握ってハァハァしとけ。あはっ」
ククリカは偽名を使う事を条件に、アガスティアに撮影の許可を出した。
白魔導士としては、ある程度の補助系魔導はだいぶ前に学んでいるので嘘ではない。
がしかし、最初の文言と後半の文言にククリカはブチギレ寸前で。奥歯を噛み締めバキンバキンと、歯軋りが止まらないのだが。
その音を聞いているのは近くのニャームゥ(オロオロしている)だけであるから。スマホ越しの映像には、引っ込み思案で恥ずかしがり屋な白魔導士として映っている事だろう。
「ねぇーすごくない? そうそう、気付いた人いる? あたし達のパーティって、ちょっと偏った編成だったけど。この土壇場に来て、グッとタレントが揃ったって感じ。
――今宵の生配信は神回確定な匂いがプンプンでしょー? あはっ、んじゃ探索始めるから、みんなもいつも通りに投げ銭よろしくねー」
ではっ!
アガスティアの掛け声に暁旅団の面々は一斉に「我ら紅蓮の暁旅団っ。いざっ、赤い紅のもっと焼けつく刹那を求めてっ」と、声を揃えた。
格好良さそうな言葉を並べただけのその空虚さに、もはや鳥肌と吐き気を催すククリカだったが、なんとか耐える。
暁旅団の面々は充実そうな表情を浮かべ、それぞれで何かのお決まりっぽいポージング。
その後ろに、彼らの異様なテンションに同調できないロイ達三人が、ポツンと画角の外にいた。
タレントが揃ったとアガスティアに評されたデコボコの九人は。
そのまま撮影しながらも、二世の古墳へと入っていく。得意な武器を担いでガチャガチャと。
観光地化しているとはいえ、迷宮内はもちろん死ぬ可能性も大いにある危険な場所だ。
果たして……
…
術理探索型王国内の迷宮に類する場所は、現在確認されているだけでも数十箇所あり。
全てが地下方向へ広大な迷路を形成している。
審議は不明だが、王宮学術研究部曰く「どうなっているかは全くの謎だが、遺跡自体が成長を続け、その広大な版図を広げ続けている最中なのではないか」と、半ば投げやりな論文を発表している程だ。
どこも危険だが、比較的ランクの低い所でも、未だ踏破したという報告は上がっていない。
それほどに広大で、なおかつ、毎年何十人という冒険者が迷宮内で命を落としている。
「はいー、この階段を降りれば二世墳墓の地下三階へと到達。ここら辺まではモンスターも少ないし、ガイド冒険者とかの連れ添いで来たことある人はいるよね、きっと。
――でも。ここからが本当の冒険者のレベルが試されるデンジャーゾーン。ねっねっ、みんなもワクワクしてきたでしょ? グロとかグロとか血とかグロとか。果たして今日は見れるかなー?」
アガスティアは隊列の中央で、長い棒の先のスマホを自身に向けながら、画面越しのフォロワーに状況説明と恐怖心を煽る演出に忙しい。
何故か一番前にはロイが配備され、そのすぐ後にベルートとダスタニャン。後衛にはニャームゥとククリカが控え、殿にイザーク、トンツク、シンダオが後方の安全確認をしている。
一行は薄暗い階段――幅だけで十メートルはあるだろう、大きな階段をゆっくりと降りていく。
「なぁなぁロイ君。君はティアが言うには結構、強いみたいじゃないか? 何処で武術を学んだのかな」
先頭をランプ片手に歩くロイに、ベルートが背後から喋りかける。
「え、あー……武術、んー。戦い方は親代わりの人に。あとは、まぁ自分で。長い間ヒマだったし」
「長い間、ヒマだった?」
ロイの答えに首を捻るベルート。
隣のダスタニャンがガハハと笑い、「ヒマと言い切るとは豪気な。はは、ベルート。この男は、ちゃんと修羅場を潜った相当の戦士かもしれんぞ? なんと言ってもこの余裕」
ガハハとまた大きく笑う。
「わおっ! 一万ゴートの投げ銭入りましたー。ありがと『パスチアアーン』さん、マジ感謝ー!
――えぇーと。ティアちゃん、いつも楽しいダンジョン配信ありがとう。無事メリルちゃんを救出できる事を祈って。がんばれー。って、ありがとー! うんうん頑張るよー、イエイ!」
アガスティアは画面上のコメントを読み上げ、片手を振り回す。
こんな事で一万ゴートも手に入るのか、と。すぐ後ろを歩いているククリカは思わずにはいられない。
若者がこぞって探索配信者になるのも頷ける。
隣のニャームゥがヒソヒソ声でククリカへと耳打ちしてきた。
「お師匠ぉ。何だか緊張感ないですねぇ」
「うむ、まぁな。だがお前は気を抜くなよ? もっと深くへと、どうやらコイツらは行こうとしてるみたいだからな」
ククリカも声を低めて応じる。
「はいなぁ。一応、脱出の時のための魔導刻印は、ここに入ってから等間隔で打ち込んでますぅ」
「ふふ、いいぞ。さすが我が弟子」
ニャームゥの頭を撫でるククリカ。
殿を務める三人は無言で着いてくる。
時折、ふごふごと鼻息を漏らすのが誰かは、背にしているククリカには分からない。
もし、
魔王の配下がククリカに気付いている場合。ここで何かしらのアクションを起こしてくる可能性は高いだろう。
そうでなくとも、人間のコミュニティに属しているからには、何かしらの目的があるはずだ。
いっそ襲ってくれた方が、ククリカ的にはかなり助かる。
街中と違って、ここだと手加減抜けで異次元魔導を使役できるし。探索中に事故はつきもの。
誰も帰らなかったとしても、なんの罰も受けずに済む。
物騒な考えを頭に浮かべる。
誰に見せるともなく邪悪な笑みを浮かべたククリカは、
お色気ボイン姉様担当と言われた事を、しっかりと根に持っていたのだった。




