十三話
「コホン……いや、挨拶もなしに、早々に身内の会話に移行してしまった事を謝罪する。
――僕は、ベルート・ランピエール。紅蓮の暁旅団のリーダーを務めさせて貰っている」
「かっかっ、それはそうだ。まずは自己紹介からだったな。ワシはダスタニャン・ワンダー。ここの参謀を務めておる」
白と黒の全身鎧がそれぞれ金属音を順に奏でて、浅く頭を下げていく。
イザーク、トンツク、シンダオに関しては、同時に自分の名前を言うものだから(しかも端的に)、三者が混ざり合いまたしても誰が誰かは聞き取れない。
「それであたしが今は唯一の紅一点、アガスティア・ノーペイン。イエイ」
サイドアップにまとめたブロンドツインテールをたなびかせ、アガスティアは口元にピースサインを添えてベロを出す。
パチパチパチ、とロイだけが何故か彼女へ拍手を送る。
ククリカはフードの奥の陰った目を吊り上げ、ほんのちょぴっとだけ見直したロイへの評価をすぐさま取り消し、舌打ち。
近くのニャームゥにはその音が聞こえていたのか、あわわと青ざめる。
が、もはやそんな事に悠長にリアクションをとっている暇はない。
この五人の中に魔王の配下が人の皮を被って存在しているのだ。
「んじゃ、ちゃちゃっと本題に入ろうかベルート」
「ああ、分かったよティア。そうだな……どこから話すべきか」
「おおよ。まずはアレからじゃないかベルートよ」
黒の全身鎧のダスタニャンは親指をピンと立てて、自身の後方を指し示す。
その場の全員がそちらへ目線を移すが、そこはただの飲食店の個室の壁だ。
だが、ロイにククリカにニャームゥの三人以外は、なんだかその通りとばかりに頷いた。
「うん。そうだな、分かったダスタニャン。んー……コホン」
白の全身鎧をカチャカチャと鳴らし、ベルートは居住まいを正すように背筋を伸ばし座り直す。
それから、
「そうだな。色々端折るけど、僕らの仲間が古墳遺跡のとある場所で、トラップに掛かって出られなくなってしまったんだ」
そこからなんだかベルートの話すトーンはみるみる下がっていって、今現在の“紅蓮の暁旅団”の状況を説明していく。
しかしながら、ククリカはその白の全身鎧の男の話など聞いていなかった。
この場をどうするかを激しく考えていたのだ。
今の所、魔王の配下と思しき誰かはククリカ達が正体に気付いているとは思っていないだろう。
それらしき挙動は見当たらないし、殺気も感じられない(おそらくだが)。
ここでいきなり戦闘に入ってしまう事も考えた。
しかし、被害の予測ができない上、この場の一匹とは限らない。この冒険者ギルド内に違う仲間が居れば、それこそどうなるか。
それに、こちらが気付かれていないのであれば、このまま気付かぬふりで情報集めに徹するのも。今まで全く情報を掴めなかった魔王の何かが手に入る可能性も十分ある。
ククリカは高速で頭の中の算盤を弾く。
黙ったままの師匠に変わって、ニャームゥはベルートの話に相槌を打って聞いている。
うんうんや、は〜、などとククリカの愛弟子は実に聞き上手らしい。
下がっていた話のボルテージは徐々に上がっていき、なんだかベルートの語気が強くなっていく。
「――と言う事で、そうっ。だから僕らは探索配信者として上を目指しつつも。果敢に遺跡調査をして、世の人々の役に立ちたいんだっ! 分かってくれるかなっ?」
ダンッとテーブルに拳を叩きつけ、目をキラキラと輝かせる。
「やだもーベルート、最後は話がめっちゃ遠くにいっちゃてるってー。ま、気持ち分かるけどねー」
「おうっ、まさしくっ。世のため人のためはワシらの大事な柱だからなっ、よくぞ言ったベルート! それでこそリーダーだっ、ガッハッハッハ」
アガスティア、ダスタニャンに続き、他の三人もうんうんと首肯する。
「はわぁ〜、ベルート様すごいですぅ。今見たんですけどぉ、紅蓮の暁旅団。フォロワー10万人もいるなんてぇびっくりですぅ。新進気鋭の冒険者様なんですねぇ〜」
自身のスマホをひょいひょいと操作しながら、ニャームゥは驚いた顔を作ってわざとらしく声を張った。
そして、
「なるほどですねぇ。脱出できなくなったメリルさんを助けるために、パーティ編成し直して救出に向かいたいけど。良い人材が見つからない。そんな折りに、ちょうどロイ様と出会って、その身のこなしからコレはっと思った。なんだったら魔導士もくっついてて尚のこと良しっ。みたいな感じで、ニャー達に声を掛けた。と、そういう事なんですねぇ〜」
師匠がこれまでの話を聞いていないのを知っていたかの様に、ニャームゥは分かりやすく要点をかいつまんで喋る。
なんて出来た弟子だろうと、ククリカはニャームゥの頭を撫でてやりかったが。それは今は我慢した。
ロイは「へぇー」などと漏らすだけで、特に何も感じていない様だ。
「そそそ。だからお願い! 人を助けると思ってこの通りっ。ねっ! なんだったら、SNSのバズらせ方とか無料で教えてあげるからさっ!」
ホントは授業料めっちゃ高いんだよあたし。と、ベロを出して再びピースサインするアガスティア。
今の所、報酬金の話はとんと出ていない。
もしかしたら、その謎の授業とやらを報酬にしようと思っているのだろうか(正直いらない)。所詮は民間。がめついのは当たり前か。
そうククリカは感じたが。逆に、金銭感覚が秀でていると見れば、それはそれである種のやり易さはあるのかもしれないな、とも考える。
だから、ここは一旦様子見も兼ねて紅蓮の暁旅団に関わる事を決めた。
ククリカはニャームゥの肩にそっと手を置き、それに合わせて向けられた弟子の視線にゆっくりと首肯する。
「ええと、ええと。そのぉ……確かに、状況は差し迫っている様に思えますしぃ。ベルート様や皆さまが人の為に活動なさっているのは、SNSの投稿をざっと見ても分かりますぅ」
ニャームゥはスマホの画面を上に下にスクロールして、素早く投稿された内容を確認していく。
ククリカにはその素早さで、その小さい画面の情報を処理することは出来ない。どうしても目が滑って頭に入ってこないのだ(若いって良いなー)。
「なので、なので。ニャー達も出来る事があれば、ベルート様方にご協力したいと……」
ここでチラとククリカを見る。もちろんすぐさま頷き、ニャームゥへの返事とする。
「え〜、思ってますぅ。でも出来る範囲で、ですよぉ〜」
「おお、そうか! やってくれるんだねニャーちゃん! なんとありがたい事だろうか! なぁみんな!」
ベルートの呼びかけに、その場の暁旅団メンバーはみな一様に大きく頷いた。
「それじゃ、探索に入るのは今から一時間後だっ! いいね!」
「はにゃっ!? え、そ、そんなに早くですかぁ」
「もちろんだ。今日の『おは生配信探索』中に、メリルが罠に掛かってしまったからな。突然のアクシデントで視聴率は跳ね上がったが、そこからどうなったかがフォロワー達の間で炎上してしまっている。どれだけ早くメリルを助け出せる配信を行えるかが、すごく大事なんだ!」
クズめ。そうククリカは心の中で付け加え。ニャームゥの再びの視線に、これまたゆっくりと首を縦に振って答える。
「あ、はい。分かりましたぁ。それじゃあの……し、支度はどこでぇ」
「おうよ小麦色の嬢ちゃん。それはワシらがデポジットで借りている装備部屋がここの二階にあるから、そこで必要な物は大体揃うだろう。心配ない」
「そうそう。あはっ、もちろん経費はあたし達が持つからそこは安心してよねん」
ギャラもないのに掛かった経費も払えとは、流石に言ってこないあたり、アガスティアは見た目以上に弁えた奴なのかもしれない。
ククリカはそう思った。
そしてそこでロイを見ると。またぞろ目の前で指をブイの字に開いている。
コイツ、マジで殺してぇ。などと思った矢先、ロイの目線が一定の方向で固まっているのを気付く。
はっ、として。
そのロイの目線の先にククリカも目をやった。
まさか視線で特定したものを教えてくれようとしているのか!
と、
だが、
五人は何故か一列に並んでいて。
視線が全て一直線に貫いていたので、特定する事は叶わなかった。




