十二話
…
……
着いたのは、冒険者ギルド『アプリコット酒場』
そこは冒険者御用達の仕事斡旋所で、飲食店や小道具屋、薬屋などが軒を連ねる複合施設だ。
敷地面積は中流貴族の豪邸並みには広い。
主に同業同士の情報交換や交流、各種保険サポート、クエスト出発前の備品買い付けなどが行われている。
冒険者にとってのスタート地点。
「こっちこっちー」
施設に入ってすぐアガスティアが案内したのは、飲食エリアの一角だ。
そこにはバースタイルのカウンターもあったが、奥にはどうやら個室タイプの部屋もあるらしい。
冒険者だと思われる格好の、いかにもな強面の男達がバーカウンターに数人。ロイ達の入店に際しなんだか値踏みするような視線を投げた。
が、
「おはー。みんなおはー」と、アガスティアが片手を上げて挨拶を交わすと。
強面の男達の顔はみな一様に綻び、「おお、ティア!」「昨日ぶりだな」などと各々気色を上げて柔面を作り出す。
「おいティア。後ろの奴らは? 新しいパーティか?」
「や、違う違う。まー、ちょっとねー」
「ははっ、なんだよもったいぶるな。またなんか斬新な企画でも考えついたのか?」
「あはー。ま、そんなとこー」
「俺らにもたまには噛ませてくれよなティア。たまにはさっ」
「そうねー……、考えとく」
アガスティアは強面の男にウィンクを飛ばして、スタスタと奥の方へ歩いて行く。
男は自嘲気味に「……まいったね、まったく」と零し、飲みかけのグラスをグイッと煽った。
「あ、ほら。こっちこっちー。この奥この奥」と、ロイ達に進行方向へ指を向けて催促する。
「お、お師匠〜」
ニャームゥは、店内が発するいかがわしい雰囲気から不安そうにククリカへその瞳を向けた。
「言いたい事は分かるよニャームゥ。とっとと話を聞いて、それで終わりだから少し我慢しておくれ」
「……はいなぁ」
そんな会話をしてククリカとニャームゥは、アガスティアが示す方へと進む。
ロイはといえばむっつりと黙りこくって、店内をキョロキョロと物色しつつ二人の後に続く。
入った個室は十数人は入りそうな宴会場に近い個室で。
大きく長いテーブルを挟んで、五人の男が座っていた。
「お待た〜ベルート。連れてきたよ〜」
「ああ、ティア。ご苦労様」
ベルートと呼ばれた男は、端正な顔立ちの茶髪の若者で、白の全身鎧を装着し腕を組んでテーブルの中央に座っている。
「おお、おお、こいつらがティアが言ってた者達かっ。かっかっかっ」
と、野太い声で豪快に笑ったのは、黒の全身鎧に身を包んだ、ベルートよりも一回り大きな体躯の中年男だ。
なぜ同一パーティ(もっと言えば少数のパーティ)に重戦士が二人も居るのかが、かなり気になったが。ククリカはフードを目深に被ったまま、無言で五人の男達を観察する。
後の三人は会話に入るでもなく。ククリカ達になんの興味もなさそうに、それぞれ思い思いの方向に視線を預けていた。
線の細い痩せ型の男は壁にもたれ掛かっている。黒を基調とした鎖帷子を装備しているのと、肩掛けに弓を持っている所から、レンジャーだろうと考察。
もう一人は小柄で小太り。顎に蓄えた髭は髪よりも長く三つ編みにされている男だ。見るからにドワーフ族の特徴を兼ね備えているのだから、多分ドワーフで鍛治師なのだろう。
最後の一人は覆面で、見慣れない異国の衣装を纏う。これまた全身黒づくめの男だ(実際は逞しいだけの女性かもしれないが)。
腰付近の短剣を見るに、役割としてはアサシンか?
そこまでをククリカは瞬時に考えた。
なんともチグハグなパーティ。それが今の所のククリカの第一印象である。
「はいはい。みんなほらっ、こっち見て! イザークもトンツクもシンダオもっー」
アガスティアがテーブルをバンバンと叩き、全身鎧以外の三人に声をかける。
するとその三人はよっこらせとでも言わんばかりの気怠さを見せて、一斉にロイ達をその視界に納めた。
どれがイザークでトンツクでシンダオかは、まだ分からない。
そしてアガスティアは、
「このお兄さんに助けて貰ったの! ちょっと見にくかったと思うけど、ストーリー見てくれたでしょ? 実際見たあたしが言うんだから間違いないんだけど、このお兄さんめっちゃ強いのよっ! それにめっちゃ速いの。マルタ一家のザコだったけど、一瞬でのしちゃったんだからっ! ほんとほんとほんと〜っ」
「うん、確かにあのストーリーは少し……いや、もはや何がなんだか分からなかった。
――けど、大丈夫。音はバッチリ拾えてたから、そこから想像するのはそんなに難しくない。ティアの言葉を信じるよ僕は」
「ベルート。あんたってやっぱイケメン〜」
「おう、ワシもベルートの意見に同意だ。あの音は、寒気が来るほど綺麗で残酷な音だった」
「やっぱ分かる? さすがおじの中のおじのダスタニャン」
おじの中のおじと評されたダスタニャンは、黒い全身鎧をカチャカチャと鳴らし、ガハハと照れ笑いした。
そしてそれに追従するように、残りの三人は「ティアが言うんだから間違いない」と、三人同時にハモって見せる。
「あはっ、やっぱ“紅蓮の暁旅団”はサイコーだわ! みんな大好きっ!」
アガスティアを除いた他五人のメンバーは、なんだか嬉しそうに照れ笑いを決めた。
どうやらギルド登録しているパーティ名が紅蓮の暁旅団と言うらしい。
暁に紅蓮を重ねるこいつらのセンスを、激しく疑ってしまうククリカ。しかし、マジでどうでもいいので未だ無言を貫く。
一体こいつらはなんの話をしたいのか。それがますます分からないから、早く出て行きたいとしか思っていない。
がしかし、
ここでふとククリカは、ロイすらも無言でいる事が気になった。
いつもなら間の抜けたクソみたいな事を、ボソッと呟いててもおかしくないのだが。そんな思いから、後ろのロイを振り返る。
すると、
ロイは人差し指と中指をブイの字に開いて、自身の目の前で開いていた。
それは、
魔王の配下を見つけた時の合図だ。
ククリカは瞬間で総毛立ち、全身の毛穴がブワーと開く。
いつ何処で。いいや、この個室の中に居るのか。居るならば何匹居るのか。アガスティアは確か人間と言っていたはず。
残りの五人がそれに当たるのか。すぐに動くべきか。
この中で誰がそれかを、ロイに催促するのはこちらの思惑がバレる危険性が高い。だがしかし、その情報なくして行動に移すのは軽々すぎる。
猛烈な勢いで脳内を駆け巡ったそれらの考え。
だが、
そっと。
ロイは静かにブイの字に開いた指を、一本に戻す。
人差し指をピンと立て、あたかも鼻筋をポリポリと掻くが如く。
でかしたっ。という思いと、ロイがまさかそんな腹芸が出来るとはっ。そんな驚きが重なる。
しかし、今その事を表情に出すわけにはいかない。
フードの先をつまみ、それから耳たぶを触り、少しの心の余裕を呼び込むククリカ。
どうやら魔王の配下は単独と見ていい。
ならば、落ち着いて行動しなくてはならないだろう。
敵は一人。
「ニャー頼む」
小さく優しく、愛弟子の背に手を当て、押し出すように撫でた。
ククリカがニャー呼びをする時。それは、自身は口をつぐみ現状を静観すると言う合図。
つまりは緊急であるという意思表示なのだ。
ニャームゥはその意図を正しく汲んで、それまでオドオドとした雰囲気を翻し。
「あっ、あのっ。すみません、本題に入って欲しいのですぅ。こちらも暇ではないのでぇ。一応、話だけは伺うという約束でしたのでぇ……」
褐色の少女の声は、その場によく響いた。
「ほぉ……麗しき小麦色のお嬢さん。すみませんでした。確かに、僕たちだけで盛り上がりすぎましたね。お詫びを」
ベルートは座ったまま、白の全身鎧をカチャカチャと鳴らし、器用に首だけでお辞儀する。
「そうねそうねー。じゃあ本題を話すとしよっかー、あはっ」
アガスティアは変わらぬ表情で朗らかに、白い歯を見せて笑った。




