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十一話



「やっほー! あたしアガスティア・ノーペイン。みんなからはティアって呼ばれてるの。よろしくね強いお兄さん」

 ロイ達三人を見るや素早く駆け寄ってきて、元気よくニコッと首を傾げいきなり自己紹介を始めた女。

 アガスティアは、

 ブロンドの髪色にサイドアップのツインテール。スピード重視の軽装鎧を、所々自分流にアレンジしてラフに着こなす十代後半ぐらいであろう見た目の女だ。


 昼間とはいえ路地裏はそこそこに薄暗い。

 そして、大通りとは打って変わって人流も殆ど無いことから、街の喧騒は何処かよそよそしく。遠方の方で他人行儀に鳴っている。

「お、お師匠ぉ。なんかギャルが現れましたけどぉ」

「……うむ。取り敢えず目を合わせるな。行くぞ?」

 困惑を瞳に浮かべるニャームゥに、ククリカはローブのフードを目深に被り直し、その場を通り抜けようと画策する。

 が、

「あぁ、さっきの……も、もしかして私を追って?」と、ロイがなんだか鼻息荒く応答してしまう。

 ククリカは小さく舌打ち。


「あはっ、そうそうお兄さん。さっきはありがと、めっちゃキモいよねアイツら。つかつかー、

 ――か弱い女性を守った勇気あるイケメン! って感じでツーショ撮りたかったんだー。あとで写真をアップしてさー、フォロワーに見せてあげたいしねー」

 一気に捲し立てロイにズズイと詰め寄るアガスティア。

 近寄られた本人は聞きなれない単語の応酬に一瞬空を仰ぐが。ブロンドのツインテールがふわっと鼻先を突いて、先ほども嗅いだ良い香りが鼻腔をくすぐったので考えるのをやめた。

「ほらお兄さん。こっち見て見て、はい、いくよー」

 アガスティアはスマホを天に掲げ、自撮りの準備を素早く済ます。

 画角的にどうしても二人寄り添う形になってしまうのは避けられないが、その際ロイは「はぁはぁ」と息を漏らし。アガスティアの背後から腕を回し、肩を掴んで少し抱き寄せる。

「え? あー、まぁいいや。じゃ撮るよー」

 何を撮るというのか。もちろんロイが知るわけもない。


 パシャ。

「もう一枚ねー」

 パシャ。

「はい、撮ったー。ありがとお兄さん。あたしの肩に無断で手を置いたことは……うん、助けてくれたしチャラにしたげる。次はお金払ってねー、あはっ」

 などど、あけすけに笑うアガスティア。

 ロイはボソッと「お金払えば、い、いいんだ……へ、へぇ」

 ククリカは心底ヘドが出る。みたいなそんな表情になってしまい、胃液が逆流した様な酸っぱい感覚を口腔内に感じた。


「あはー、お兄さんたちってこの後なんか予定あんのー?」

 アガスティアのその問いに、ククリカはすぐさま返答しようとする、が。

 ロイの「全然ない。全く問題ない。そして、今すぐ行こう!」の高揚したテンションと共に発せられた上擦った言葉が、誰よりも早く薄暗い路地裏に響いてしまう。

「あそ。じゃあ、仲間がいるバーが近くにあるんだけど、ちょっと話聞いてよー。お兄さん強いからヤバ頼りになりそうでヤバー」

 流石にすかさず、

「ロイ。我々にはそんな時間はないだろ? 申し訳ないが丁重に、そこのご婦人に陳謝し移動しようじゃないか。なぁ?」

 平静を保ちつつも、声を押し殺してククリカは言った。


「大丈夫ですククリカ様。私たちには三日ほどの猶予があったはずです。この女性に話を聞く余裕は、ラクダのよだれ並みにいっぱいありますから」

 なんだか早口で流暢にそう言ってのけるロイに。街を丸ごと殲滅できる異次元魔導の構成要件を思考するククリカ。

「お。お師匠、待って待って待って、それダメっ。それはダメですぅっお師匠っ!」

 ニャームゥの慌てふためいた制止がなければ、ここら一体が一瞬で吹っ飛んでいたであろう。

 ククリカはなんとか堪える。


 がしかし、

「ククリカ……え、まさか。大魔導士ククリカ・クニエル! えっえっえっ!? 確かに似てるなとは思ってたあたしー、えっえっ、マジー!?」と、アガスティアは思っている感情をそのまま表現した。

 ククリカはただ、手のひらで顔を覆い静かに項垂れるしかない。 

 横に居るニャームゥは引き笑いを顔に貼り付けその場に凍る。

 ロイはずっと、ブロンドのツインテールの女の、その色の濃いグリーンの瞳を見つめニヤついた。


「ヤバー。大事件大事件っ! めっちゃ有名人に会えたじゃん、撮っていい? いいや撮るね、ほんと掛け値なしにっ」

「待てっ! あ、いや……待ってくれ。その、今は。目立つわけにはいかないんだ。あっ、撮るな撮るなっおい! 分かるだろ? 秘密裏に行動しないといけない、り、理由がある。国益に反する恐れがある。わ、分かるよな? 冒険者だろ?」

 こんなに慌てたのは何十年、もしくは何百年ぶりだろうか。ククリカはスマホを自身へ向けたアガスティアへ声を張る。

 別にバレて困る事は基本無いわけだが。目立ちたくないという思いと、若いバカ女の再生数稼ぎに利用されるのも業腹、しかしそこを指摘も出来ない。もっと言えば元凶のロイを締め殺したいくらいには(はらわた)が煮えくり返っているのだ。

 そんな色々で様々な思いが脳内で交差し、嘘も方便と、なんだか取り繕うような言になってしまう。


「え……SNSに載っけちゃダメ?」

「ダメだっ(やめてくれ、そんなのは最悪だっ)。国益に反すると言っただろうアガスティア」

 もし本当に国からの重要な任務の最中であるならば、その作戦行動中に民間人に身バレしたという事になる。するとそれは軍規では国家反逆罪になってしまうし。仮に、長年の功績を鑑みられ無罪放免を勝ち取ったとしても、自身の無能を晒す行為だ。かなり恥ずかしい。

 どこの馬とも知れぬ市井のアホ女に、隠密作戦を看破された事になるのだから。

 実際はただの休日なのだが。


 しかし、

「えぇーっ……じゃあ、やめる。なんか面倒い事になりそうな雰囲気察知ー。収益剥奪とかマジ勘弁だし」

 非常に残念そうに口を窄め、アガスティアはスマホを下ろす。ちぇっ、なんて口に出して路傍の石を蹴った。

 状況が読めない程のバカではない、と。ククリカはアガスティアの評価を少し改める。

「助かるよ。そして君の賢明さを讃えよう」

 大仰な物言いは好きではなかったが、ある程度の身分格差は見せておくに越した事はないだろう。そんな打算をククリカは働かせた。

 が、その後がよろしくない。


「じゃあさじゃあさ、お兄さん含め大魔導士様含め、みんなでちょっとあたしのパーティに会ってくんない? 今すごいなんか大変でさぁ、お願いお願いお願い!」

 と、アガスティアは片目を瞑り、自身の可愛さはココだと知っているかのように戯けた態度で、両手を擦り合わせて頭は1ミリも下げずにお願い事をする。

 間髪入れずに「もちろん!」と言ったロイには、再度殺意が湧いてしまうククリカだが。自身の吐いた嘘ゆえ、ここで無下にすると後でSNS上で何を言われるか分かったもんじゃない。

 苦笑いを浮かべるしかなかった。

 隣のニャームゥにしても、おろおろと、どうすれば良いのか分からない様子。


 もはや何をしにここまで来たのか。

 そんな歯痒さを抱えたままククリカは、

「……わ、分かった。話だけなら聞いても良い。その代わり」

「あはっ、やったー。分かってますって大魔導士様。そっちの都合優先でいいよもちろんっ」

 と、快活に応えるアガスティア。

「それと、私たちの事は……」

「はいはい。もちろん素性は言わなくてダイジョーブ、ダイジョーブ!」

 歯をニカっと見せて親指を突き出すアガスティアに、一抹の不安を隠せないククリカだったが。

 いつの間にか場は、冒険者風情の女が仕切っている様な雰囲気に包まれている。


 しかして一行は一路、冒険者が集う酒場へと行く羽目になってしまった。

 

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