第二章 そうちゃんって、泊まらないよね。
あおちゃんが帰る日。
スーツケースを閉めながら、
ひとりごとみたいに言った。
「いやぁ〜楽しかったなぁ〜。
すっちゃんとりっくんとも、親友になれてよかったよ〜」
親友。
たぶん、そう思ってるのは
あおちゃんだけだ。
言わないけど。
ママは、お布団をおばあちゃん家に返しに行っている。
部屋には、私とりっくんと、あおちゃん。
急に、あおちゃんがこっちを見た。
「すっちゃん、りっくん。寂しくない?」
「……なにが?」
「ママはね、言わないけど。
気にしてるみたい。パパのこと。」
あぁ。そういう意味か。
りっくんは、まだ分かってなさそうな顔。
「パパがいないから寂しい、は……
私はあんまりないかも。」
本当のこと。
「僕、パパ覚えてない。」
りっくんも言った。
少し、静かになった。
「そっか。君たちは、強いなぁ」
あおちゃんはそう言って、
私たちをぎゅっと抱きしめた。
びっくり、半分。
なんだか分からないけど、
あったかい、半分。
あおちゃんの頭越しに、
りっくんと目が合った。
りっくんも、同じ顔。
なんとなく、ふたりで笑った。
そのあと、
あおちゃんは帰った。
家は、また静かになった。
あおちゃんが帰って、
家は、いつもの家に戻った。
でも私は、
誰かがうちに泊まるって、
なんか、楽しいことなんだって思った。
知らない匂いとか、
夜遅くまで聞こえる笑い声とか、
ちょっと特別だった。
誰か、また泊まりに来ないかなぁ。
しばらく、そんなことを考えていた。
そして、
その“誰か泊まって攻撃”を
受けることになったのは、
当たり前だけど、
そうちゃんだった。
遊びに来るたびに、聞いた。
「今日泊まる?」
「泊まれば?」
「明日泊まる?」
そうちゃんは、決まって言う。
「俺ん家すぐそこだから。
泊まる必要ない。」
つまんない。
すぐそこって言っても、
歩いたらちょっとかかるよ?
車ならすぐだけど。
たまには、いいじゃん。
私が何回言っても、
何回聞いても、
そうちゃんは、
うちに泊まることはなかった。
それから。
泊まって攻撃をかわされ続けた私は、
だんだん聞かなくなった。
時間と一緒に、
その熱も冷めていった。




