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第七章 そうちゃんって、優しいね。

『やっと家具が揃ったよ〜。いつ遊びに来る?』

 朝起きると大輝から、メッセージが来ていた。

「ママ、今日大輝の家に寄ってくるから。夕飯はいらないよ。」

 私はママの背中に声をかけ、ココアを飲んだ。

 朝ごはんは食パンと昨日作っていたイチゴジャムが並んでいた。食パンを手に取りイチゴジャムを塗って、一口食べた。ジャムなのに酸っぱくて、元々のイチゴは一体どれだけ酸っぱかったんだろうと思った。それと同時に先にココアを飲んだ事を後悔した。

「ココア飲む前に、食パンだったな。」

 横でりっくんがまた私の心の声を呟きながら、オムレツを一口食べた。



 放課後、駅前に出来たワッフルのお店に咲良と百合と行って、テイクアウトをして、私は大輝の家に向かった。

 プレーンを2つと、大輝は抹茶が好きだから、抹茶味も買った。

 私はウキウキしながら、大輝の家に向かった。

 と言うのも、実は今日私が大輝の家に行く事は内緒にしている。

 朝、大輝から来ていたメッセージには、『予定確認して、また言うね。』と返していた。

 だから、大輝はきっと今日私が来るとは思っていないだろう。


 アパートの階段を上がり、大輝の部屋の前に立った。合鍵はもっているけど、ちょっと驚かそうとインターホンを押した。


 ピーンポーン。


 ガチャ。

「はーい。」と返事をし、出てきたのは茶髪のボブヘアの女性。


 え…?誰?


「えっと。なんでしょうか。」

 彼女は、キョトンとした顔で私を見た。

 驚きのあまり返事もできずに固まっている私を、不思議そうに見るその女性の後ろから、「誰だったー?」と大輝の声がした。

「えーっと。」

 その女性が大輝の方を振り返って、大輝の姿が現れた。

「え?!すみれ?!来るなら行ってよ!」

 大輝が言った。

「あ、え?彼女さん?」

 その女性は、大輝に言った。

「そうそう。俺の彼女のすみれ。」

 大輝はその女性に私を紹介した。

「こんにちは。私、だいちゃんと同じ部活の美香子です。お邪魔してます。」


 だいちゃん…?


 美香子は大輝の肩に手を乗せて、笑いながら言った。

 なぜ、わざわざ大輝の肩に手を乗せる必要があるのか。

「彼女さん来たなら私は帰ろうかな。ありがとうね。」

 そう言って、美香子は帰って行った。


 美香子を見送り、「来るなら言ってくれたら、迎えに行ったのに。」と言いながら、大輝は部屋に入った。

 なかなか上がって来ない私に、「入れば?」と大輝は私の腕を掴んだ。

 けれど、私は大輝のその手を振り払った。


「あの人と2人で家にいたの…?」

 言葉にした瞬間、涙で視界がボヤけた。

「え…?」

 状況を理解した大輝は、慌てて言った。

「いや…いやいやいや!すみれが来るほんの少し前まで、他にも同じ部活の友達が居たんだよ!美香子だけ、電車が逆方向で電車の時間がまだだから、それまで居ていいかって言うから居ただけで、2人でずっと一緒にいたんじゃない!」

 大輝が慌てて喋るのを見ていると、どんどん腹が立ってきた。私は涙でボヤけた目を袖で拭った。

「じゃあ、なんでインターホンが鳴ってあの人が出てくんのよ。大輝の家でしょ?!」

「そ…それは…出るよって言ってくれたから、お願いしただけで。すみれが来るって分かってたら、みんなと一緒に帰ってもらってたよ!!言ってよ!」

「は?私に合鍵渡していつでも来ていいよって言ったよね?私が来ないなら女の子を部屋に上げてもいいわけ?!2人っきりで居ていいわけ?!」

 珍しく声を荒げる私に、驚いている大輝。

「ありえないから。…もう帰る。」

 私は買ってきたワッフルを置いて、玄関を出た。

「待って!待って!すみれ!」

 大輝が私の腕を掴んで引き留めた。

 その手を私はまた振り払って歩き続けた。



 あの、美香子って人。やけに大輝と距離近かったな。肩に手とか乗せて。仲良いですよアピール?なんなの。

 大体、大輝も大輝だ。なに平然と女の子と2人きりになってんの。意識してないから2人になりましたって?彼女持ちは異性を意識しろよ。意識して避けろよ。

 次から次に文句が出て、なかなか怒りが治らない。

 黙々と歩いていると、プップーと車のクラクションが鳴り、ビクッと肩が跳ね、我に返った。

 気づいたら、もう地元の駅からアパートに向かって歩いてる途中だった。

 振り返ると、そうちゃんが手を振った。


 なんか、前にもこんな事あったな…。


「おかえり〜」とそうちゃんが笑った。

 私は助手席に乗って言った。

「そうちゃんって、色んな意味でタイミング良いって言われない?」

「え?どう言う事?」

「私、今すごい怒ってる。」

「え…なんで?」

 苦笑いしながらそうちゃんは言った。

 私はハァと大きくため息をついて、さっき大輝の家で起きた事を熱量たっぷりにそうちゃんにぶち撒けた。

 そうちゃんは、私の話に時々相槌を打ちながら、アパートの前を通り過ぎ、隣町まで車を走らせた。

 途中、カフェのドライブスルーに入り、キャラメルラテを買ってくれた。

 それを飲みながら、私は話し続けた。

 キャラメルラテが空になった頃、ようやく私は落ち着いた。


「まぁ、今回の事は大輝の不注意だったんだろうな。」

 私が話し終えて、そうちゃんは呟いた。

「それは私が許してあげた方がいいって事?」

 このキャラメルラテ、いつものより甘くて美味しかったなぁ。と思いながら、コップを軽く振った。

「んー。いや、そんな事ない。でも、落ち着いたらちゃんと話さないとな。」

 そうちゃんもコーヒーを啜った。

「んー…。」

 そうちゃんに話した事と、甘いキャラメルラテを飲んだ事で怒りはだいぶ落ち着いていた。

 けれど、今すぐに大輝と話す気にはなれなかった。

 怒りが落ち着いた事で、大輝が浮気をしようと思って、あの美香子って人を家に入れていたわけじゃないって事はなんとなく察する事が出来た。

 それでも、簡単になかった事には出来そうにない。


 私は「そうだね。」と呟いて、ズゴズゴっと空になったコップの中をストローで吸い続けた。



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