↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/45

第七章 そうちゃんって、優しいね。

「「かんぱーーーい!!!」」

 カチャンとグラスのぶつかる音。

 ケーキのプレートには、『だいき・りくと、おめでとう』の文字。

「いやぁ、僕も一緒に、ありがとうございます。」

 大輝がグラスを置いて言った。

「いいのよいいのよ!気にせず食べて!」

 ママが、首を振りながら、唐揚げを大輝の皿にのせた。

 今日はりっくんと大輝の受験合格祝いだった。りっくんはR付属に、大輝はR大に合格し、晴れて2人は私の先輩後輩になったわけだ。

「みんな俺の後輩だなぁ〜、嬉しいなぁ〜。」

 OBのそうちゃんが、ビールを飲みながら嬉しそうに言った。

「めちゃくちゃ勉強しました〜。高校受験より勉強したかも。」

 大輝が頷いた。

「R大は、付属に特進クラスを増やしたから、偏差値上がって来てるらしいからね〜。大輝くん頑張ったねぇ。」

 りっくんが言った。

 りっくんと大輝は3つも歳が離れているのに、りっくんは全然敬語を使う気配がないし、大輝も元々上下関係を気にしないので、友達みたいになっている。

「付属から上がってくる子達は、みんな頭良いんだろうなぁ〜大丈夫かな俺。」

 大輝は唐揚げをポイっと口の中に入れた。

「付属から上がってくる子も、それなりに試験受けて大学来るからね〜。」

 私はサラダをムシャムシャ食べながら言った。

「すー、またサラダばっかり食ってる!肉も食え、肉も!」

 そうちゃんが、サラダの上になぜかたこ焼きをのせた。

 私はそのたこ焼きを無言で、大輝の口に入れた。

 部活を引退して、大輝は少し太った。その原因の半分は私だ。自覚している。

 デートで、ご飯を頼む時、1人1つずつ注文をする。そして、食事が来ると、私は取り皿に自分の物を取り分け、大輝に渡す。

 実質1.2〜3人分を彼は毎回食べる。大輝がお腹が空きすぎて、大盛りを注文してる時も同じだ。そう言う時は2〜2.5人前を食べる。

 デザートも、半分を大輝にあげる。大輝は自分の分と私の半分を食べる。

 普段も、暇があれば友人達とラーメンを食べに行っているようだ。ラーメンは大輝の大好物。

 食べる量は、バリバリにサッカーをしてた時と変わってない。でも、運動量は…言うまでも無い。

 太るわけだ。

 細マッチョで、6つに割れていた大輝のお腹の線は消えかかっている。

「大輝も野菜食べなよ。」

 私は大輝に耳打ちしたが、ふふふと笑って誤魔化された。


「大輝は一人暮らしするんだって?」

 そうちゃんが言った。

「あ、そうなんです!キャンパスが××駅の方なんですよね〜。」

 大輝が3つも唐揚げを取ったので、私は大輝の皿から一つりっくんの皿に置いた。

「××駅だと、通うのに少し距離があるよね〜。」

 ママが頷いた。

「部屋はもう決めたの?」

「今度、親と不動産に行く予定です。」

 2つあったはずの唐揚げが皿から消えていて、思わず二度見した。


 ケーキを食べた後に、「なんだかしょっぱい物食べたくなったなぁ〜。」って話になって、私と大輝がコンビニに行く事になった。


 暦では春のはずなのに、この時期の冬が1番寒い気がする。

 後ろから冷たいがヒューッと吹いて、私と大輝を追い越して行く。指先が少しずつ悴んでいく。

 両手で摩っていると、「寒いね。」と言いながら大輝温かくて大きい手が私の手を握った。

「ほんとに寒いね〜。山が近いから尚更だよね。」

 私は感覚が鈍くなってきている手で大輝の手を握り返した。

「でも、来年のこの時期はもう俺はここに住んでないんだよなぁ。」

 大輝が染み染みと、黒い影になっている山を見つめながら言った。

「そうだね。独り立ちだね。」

「いや、親から仕送りあるから、1人では立ててないな。」

 大輝が笑いながら、「巣立ちって言うのかな?」と言った。

「ツバメみたいだね。」と、私も笑った。

「あ!そうだ!合格祝い。何が良い?」

 私は大輝の顔を覗き込んだ。

「えー?いいよそんなの。」

 大輝は首を横に振った。

「いや、あげたいの!何が良い?そんなに高価な物はあげられないけどさ。」

「んー………物じゃないかも。」

 大輝はマフラー顔を埋めてつぶやいた。

「物じゃない?…じゃあ何?」

 見つめる私を大輝はチラッと見て、さっきよりも小さい声で、「キス…」と言った。

「え?!」

 思わず立ち止まった。

 5年も付き合っていて、そもそもキスもした事ないと言う事に、咲良と百合に驚かれたことがあった。

 けれど、私も大輝も特にそこに関して触れる事は今までなく、そう言う流れになればするんだろうくらいでしか考えた事なかった。結果、何かのイベントに肖らないと言い出せない状況になっていたのかもしれない。その結果、大輝の合格祝いと言う事になったようだ。

 

 大輝も立ち止まり、私の顔を見つめた。街灯に照らされた大輝の顔は、不安と緊張が混じっているように見えた。そんな大輝の顔を見るのは久しぶりで、なんだかすごくドキドキした。

 スッとした鼻は少し赤くなり、アーモンド型の目も形が綺麗な唇も昔と変わっていない。

 少し太っただの思っていたけれど、相変わらずかっこいいなと思った。

 私が黙って見つめていると、大輝が私に歩み寄った。頭一個分高い大輝を見上げた。

「キス…しても良いですか?」

 掠れて少し震える声で大輝は言った。

 嫌じゃない。むしろ、ファーストキスが大輝じゃないなんて、考えられないくらいだ。

 私は小さく頷いた。

 大輝の顔がゆっくりと降りてきた。私も大輝を見上げたまま、目を閉じた。

 夜風で冷たくなった私の唇に、マフラーに埋めて体温を保っていたであろう大輝の唇が触れた。温かくて柔らかい。家を出る前にリップクリームを塗っていて良かった。この季節は気を抜くとすぐ唇がカサカサになる。

 ゆっくりと唇が離れ、目を開けると大輝と目が合った。

 ジッと見つめる大輝の視線が恥ずかしい。

 大輝は私の右頬を片手で覆い、「もう一回」と呟いて私の返事を待たずに、また唇を重ねた。

 胸がギュッと締め付けられ、心臓がバクバクと激しく動いている。

 まだ大輝にこう言う感情が残っていた事に驚いている半面、大輝がまだ私に恋愛感情を持ってくれている事が嬉しかった。


 唇が離れ、大輝の顔を見ると、余裕のなさが滲み出ていて、思わず吹き出してしまった。

「え、なに。」大輝が恥ずかしそうに言った。

「いやぁ、べつに?」

 私は笑い続けた。

「なんだよぉ。」

「ううん、嬉しかっただけ。」


 そして、この2週間後、大輝は地元を離れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。