第六章 そうちゃんって、頼りになるよね。
ポクポクポク。
お坊さんが、木魚を叩きながら、お経を唱える。
遺影には、私の見た事がない笑顔を浮かべたおじいちゃんがいた。
おじいちゃんは、地元の役場で長年勤務していた、元公務員。定年退職をしてからも、地元の行事に呼ばれたり、参加したりしていたらしい。
だから、お通夜に町長さんまで来たのは驚いた。
お通夜を終え、控え室で、食事が振舞われた。ママはお茶汲みや、お酒の手配や、おばあちゃんと一緒に忙しそうに働いていた。
そんな様子を、私とりっくんは、隅の席で見ていた。
「すみれちゃんと、陸斗くん?」
知らないおばあちゃんが、私たちに話しかけてきた。
「あ、はい。」私は返事をした。
「小さい頃に、一度だけ会ったことあるのよ。私、あなた達のおじいちゃんの妹の橋口です。」
「あぁ。」私もりっくんも、軽く頭を下げた。
手を口に当てて、ふふふと笑った。
なんだか、上品なおばあちゃんだなぁ。と思った。
「おいくつになったのかしら。」
「私は、16です。陸斗は、14です。」
「そうなの。子どもの成長は早いわぁ。」
そう言って、またふふふと笑った。
そこに、「お母さん。席はあっちよ。」と、また知らない少し小太りなおばさんがやって来て言った。
私たちを横目で見て、「楓さんのお子さん?」と橋口のおばあちゃんに聞いた。
「えぇ、そうよ。大きくなってて、驚いちゃった。」
「ふーん。おじさんも、よくやったわよね。」
ボソッとそのおばさんは言った。
どう言う意味?
キョトンとする私とりっくんに、橋口のおばあちゃんが、「なんでもないのよ。」と言いながら、手を振り去って行った。
「何あれ。」
りっくんが言った。そして続けて、「感じ悪いな。」と毒づいた。
会も終わりかけた時、少し酔っ払ったさっきの感じ悪い小太りのおばさんがズカズカとママの方に歩いて行くのが見えた。
そして、おばさんはママに向かって言った。
「ちょっと、楓さん。あなた、おじさんのお見舞いに一回しか来なかったって本当?!」
その場の空気が一気に静まった。
ママは、そのおばさんの方を向いて言った。
「来なくていいと、本人が言いましたから。」
「はぁ?それが、育ててもらった人間の態度なの?本当の子どもじゃないあなたをおじさんは、最後まで育ててくれたんじゃないの。なんて薄情なの?」
ママは黙って、そのおばさんを睨みつけている。
「やめなさいヤエちゃん。こんな所で。」
橋口のおばあちゃんが間に入った。
「すいません。私が無理に来なくていいと言ったものですから。」
おばあちゃんも、間に入った。
ヤエちゃんと呼ばれたおばさんは、ママに「恩知らずね。」と吐き捨て、帰って行った。
本当の子どもじゃない…
知らなかった。ママとおじいちゃんに血のつながりがない事を。
その帰り道。車の中で、ママがポツリポツリと独り言のように話し出した。
ママは、おばあちゃんの連れ子だった事。ママのお父さんは、ママが小さい頃に居なくなった事。急にお父さんになると言われ、やって来たのがおじいちゃんだった事。
「おじいちゃんとは…あんまり仲良くなれなかったのよね。」
ママは、ため息混じりに言った。
"仲良くなれなかった"
この一言に、何があったのか。私の知っているおじいちゃんを思うと、なんとなく分かったような。でも、分からないような。
ただ、ママは私達に詳しく話したくない。と言う事だけは、よく分かった。
『ごめん。再婚はしないって決めてる。』
『そうだよな。それで苦労したんだもんな。』
いつかのママとそうちゃんの会話を思い出した。
ママが、そうちゃんと付き合ってないのは…そう言う事なの?そうちゃんとおじいちゃんは、違う人なのに。
でも、そんな事は、きっとママが1番よく分かっているはずだ。




