第六章 そうちゃんって、頼りになるよね。
「もう少し近くに来ても良いよ?」
おばあちゃんが、私とりっくんに言った。私とりっくんはゆっくりおじいちゃんに近づいた。
白い顔に、昔より骨ばった顔に、細くなった腕。おじいちゃんの様子から、昨日今日入院したわけじゃないと言うのは、私でも分かった。
いつから、病院に居たんだろう。
そう思いながら、おじいちゃんを眺めた。
けれど、私もりっくんも涙は出なかった。そして、ママも泣いていなかった。
廊下のベンチにりっくんと座っていると、ママがやってきて言った。
「ママ、もう少しやる事あるから、先に帰ってて。総一迎えに来てくれるから。」
私とりっくんが、外に出るとちょうどそうちゃんの車が、病院の駐車場に入ってきて、私たちの目の前に止まった。
私とりっくんは、後部座席に乗った。
車は静かに動き出した。
「疲れたよな?お通夜にお葬式に、少し慌ただしくなるだろうから、帰って少し寝た方がいいぞ。」
運転しながらそうちゃんは言った。
「そうちゃんは、寝たの?」
りっくんが言った。
「さっきまで寝てたよ。」
嘘だ。
私もりっくんも思った。昔、そうちゃんのお父さんが、「総一は一回寝るとなかなか起きねぇ」って言っていた。
きっと寝ずに待っててくれたんだ。
私もりっくんも思った。
家に着き、そうちゃんは私達を降ろして帰って行った。眠くなかったはずなのに、ベットに横になった瞬間、瞼が重くなり、眠りについた。
部屋の外からの物音で、私は目が覚めた。スマホを見ると、12時を過ぎていた。
画面の通知には大輝から『温泉どう?楽しんでる?』と、連絡が来ていた。
とりあえず、私はスマホを持って部屋を出た。
ママが台所に立って、料理をしていた。
「あ、おはよう。せっかくの旅行だったのにごめんね。また日にち改めていこうね。」
いつもの調子でママが言った。
「うん、それはいいんだけど。…ママは大丈夫?」
ママは、包丁で野菜を切りながら、
「うん、大丈夫。明日の夜がお通夜で、明後日がお葬式になったから、ちょっとおばあちゃん家と行ったり来たりするけど、すーとりくは、今は家にいていいから。お通夜もお葬式もあなたたちは制服だからね。」
私の大丈夫?が、違うように受け取られたのか、それともはぐらかされたのか…
私には、分からなかった。
「うん、分かった。なんか手伝う事あったら言ってね。」
私が言うと、ママは振り返り、「ありがとう。」と笑った。
私は部屋に戻り、ベットに寝転んだ。
流石にもう寝れなさそうだ。
スマホを開き、『温泉無くなった。』と返信した。すると、すぐに返事が返ってきた。
『行かなかったの?』
「いや、行ったけど、夜中帰ってきた。」
『なんで?』
「おじいちゃん亡くなったんだよね。」
『え。マジで??大丈夫?』
「何が?」
『いや、すみれが。』
「私は大丈夫だよ。」
『そっか。それならいいんだけど。』
私はスマホを閉じ、天井を眺めた。
大丈夫。全然大丈夫なんだけど。言葉に出来ないこの気持ちが分からない。




