第六章 そうちゃんって、頼りになるよね。
ママが携帯に耳を当てた。
「あ、もしもし、総一?実は…」
話しながら、部屋を出て行った。
「とりあえず…荷物まとめる?」
りっくんが言った。
「そうだね。」
私たちは立ち上がり、荷物をまとめ、着替えた。
「総一が今から迎えに来るから。」
部屋に入ってくるなり、ママがそう言った。
そうちゃん、今から来てくれるんだ…
旅館は、家から高速に乗って2時間くらいのところだった。
道が空いていたのか、そうちゃんは1時間半くらいで旅館に着いた。
私達は、そうちゃんの車に乗り、おじいちゃんの元に向かった。
ママは、眉間に皺を寄せ、何も喋らない。
外は真っ暗になっていた。走っている車も少なかった。
りっくんもそうちゃんも、私も。何も話さない。
居心地の悪い空間だった。
そうちゃんは、地元の総合病院で私達を下ろした。
「帰るとき、また連絡して。」
そうちゃんは、ママに言った。
「ありがとう。」
ママは、頷いた。
私達は、夜間入口から病院に入った。
病院の中は真っ暗で、非常口の緑色の光が、なんだかすごく不気味だ。
「2階病棟に入院中の高木義人の家族です。」
ママが受付の警備員さんに言った。
「確認しますので、少々お待ちください。」
警備員さんが、受話器をとった。
私とりっくんは、ママの後ろに突っ立ったまま。
「今、看護師が降りてきますので、そこでお待ちください。」
警備員さんは、近くのベンチを指して言った。
ベンチに座る間も無く、薄暗い廊下から足音が聞こえてきた。
「高木義人さんのご家族さまですか?」
白い白衣姿の看護師さんが現れた。
「はい。」
ママが返事をする。
「ご案内します。どうぞ。」
早足で前を歩く看護師さんの後ろをついて歩いた。
階段を上がり、ナースステーションの前を通り過ぎた。中には誰もいない。
病棟はしんっと静まり返っている。
「こちらです。」
看護師さんは一つの部屋の扉を開けた。
部屋のプレートには"高木義人"と書いてあった。
ママは会釈をしながら病室に入り、私とりっくんも後に続いた。
中には、看護師さんが2人とお医者さん、そして、おばあちゃんがいた。
ベットには、少しやつれたおじいちゃんが寝ていた。
ママはベットの近くまで歩み寄ったが、私とりっくんは、入口のおじいちゃんが見える所で立ち止まった。
「ご家族揃われましたか?」
お医者さんが、おばあちゃんに言った。
「はい。」
おばあちゃんは、目をハンカチで押さえながら言った。
お医者さんは頷いて、自分の腕時計を確認した。
「午前1時40分。高木義人さん、ご臨終です。」
おばあちゃんのすすり泣く声だけが、部屋の中に響いていた。
おじいちゃんが死んだ。
頭では分かる。悲しい事のはず。
でも、あまりに急すぎた。最後に、おじいちゃんに会ったのはいつだっただろう。
いつもムスッとしてて、何を話しても、「うん」とか「そーか」しか言ってくれないおじいちゃんだった。きっと私達の事があまり好きではないんだろう。そう思っていた。だから、私からおじいちゃんに会いに行く事はなかったし、ここ数年、おじいちゃんの事を思い出した事があっただろうか…。
正直、悲しいと言う感情が湧かなかった。
なんなんだろう。この気持ちは…。




