第六章 そうちゃんって、頼りになるよね。
「あー!!!畳の匂い〜最高!!」
りっくんが荷物を放り投げ、畳の上に大の字になった。ほぼ大人サイズのりっくんが、寝っ転がると、急に部屋が狭く見えた。
りっくんの成長は中学に入ってから著しかった。私も163cmと女性の中では割と高い方で、ママも私とあまり変わらない。
しかし、りっくんは、男というのとあり、大きさが規格外になってきている。
「いや、デッカ。今何センチよ。」
「んー、こないだ保健室で測った時は175cmだったかなぁ。」
「え?!やっば!男じゃん!」
私はりっくんの荷物を軽く足で払い、端に寄せた。
「いや、男だし、俺の荷物蹴るなし。」
見られていた。
「荷物軽くまとめたら、お風呂行こうかぁ〜」
ママが戸棚の浴衣を出しながら言った。
私達は、何年振りか分からない家族旅行に来ていた。ママが、職場の忘年会のビンゴゲームで当てた温泉旅行の期限が切れそうなのに気づき、慌てて予約を入れた。
夏の温泉は乗り気じゃなかったけれど、綺麗な館内に、木陰が涼しい山の中、穏やかに流れる川の音は心地いい。澄んだ空気は、私の日頃の気疲れもそっと癒してくれそ……
「すみれが気疲れって、どんな学校だよ。」
りっくんが鼻で笑いながら言った。
私は、目を細めてりっくんを見た。りっくんは、いつからか急に私のことを“すみれ"って呼ぶ様になった。ずっと"すっちゃん"だったのに。
「みんな頭いい上に、とにかく可愛いの。わかんないよ。男のりっくんには。」
私は、今でも"りっくん"なのに。りっくんもとうとう思春期だな。
無事R大付属に合格した私は、華のJKライフを送っていた。
周りの子に置いていかれない様に、必死で…勉強していた。
勉強と言うのも、ファッションやメイクの勉強だ。授業自体はそんなに困っていることはない。この間の期末テストも110何人(正確な人数を把握していない)中、17位だった。
そうちゃんの言っていた通り、勉強の飲み込みの良さは、ママ譲りなのかもしれない。自分で言うのもなんですけどね。
入学して、近くの席だった咲良と百合が、私も含め、同じ花の名前という共通点で仲良くなった。2人とも明るくて面白くて、大好きなのだが、とにかく可愛い、美人な2人と居て浮かない様に必死だった。
小柄で色白、まんまるな目。顔も小さく華奢。守りたくなる系の咲良。
私より少し身長が高く、切長の目とサラサラの黒髪ロング。まさに大和撫子とは百合の事を言うのだろう。
そして、私。2人と並んだ姿を見るたびに、コンプレックスの塊になってしまいそうだった。
メイク道具を買いあさり、練習をしたり、髪を巻いてみたり、ダイエットも始めた。
そんな私を見てそうちゃんは、「ザ・女子高生だなぁ」と笑っていた。
「ザ・女子高生」とか言っちゃうそうちゃんは、おじさんになったんだなと心の中で思った。
温泉の入り口の前でりっくんと別れ、ママと2人で女湯に向かった。
ママと一緒にお風呂に入るのなんて、いつぶりだろうか。
「あ〜。きもちぃ〜。」
自然と声が出た。お風呂の目の前の大きな窓からは、青々とした木々が見え、葉の隙間から溢れる陽の光が、風呂の湯に落ちてキラキラと光って見えた。
隣でママも気持ちよさそうにしている。
「そうちゃんも来れば良かったのにねぇ〜。」
私はママに言った。
「んー、そうねぇ〜。」
ママは目を瞑ったまま、軽く頷いた。
温泉の予約をするときに、私もりっくんも、てっきりそうちゃんも一緒だと思っていたので、驚いた。
「そうちゃん、来ないの?なんで?」
りっくんが、聞いた。
すると、ママは少し考えて、「家族旅行だから…かな?」と、困った顔をした。
その顔を見たら、私達はそれ以上は何も言えなくなった。
そうちゃんも、「楽しんでこい!!」って最初から行くつもりないみたいに言って。なんだかなぁ。なんて思ったりした。
お風呂から上がると、食事の準備がされていた。お刺身に、なんとか牛とか言う高級なお肉のすき焼き。
前菜は綺麗に盛られていたけれど、ちょっとよく分からない味をしていた。
食事を終え、りっくんとゲームをした。ママはゆっくりとお酒を飲みながら、本を読んでいた。
すると、
〜♪
ママの携帯が鳴った。
「もしもし?どうしたの?」
ママが電話に出た。
私もりっくんも気にも止めず、ゲームを続けていると、
「うん。そう。分かった。また、着く時間分かったら連絡するから。」
私とりっくんは、顔を上げ、ママの方を見た。
ママが本に栞を挟みながら、言った。
「おじいちゃん。危篤らしいから帰るよ。」
「「え?」」
私もりっくんもキョトンとする。
きとく?きとくって。危篤?




