第五章 そうちゃんって、聞き上手だよね。
私は、本格的に受験勉強を始めた。
講義がない日もカコと自習室に篭った。
何度もテキストを解いた。教科書も参考書も、付箋やカラーペンでいっぱいになった。
暗記カードは5つもあった。暇があれば、カードをめくった。
ママは、私が勉強で遅くまで起きていると必ず一緒に起きていた。「先に寝て良いよ」って言うと、「眠くないだけだから、気にしないで。」と言った。
そうちゃんは、うちに来ると必ずお菓子や飲み物を買って、私の机に置いた。お陰で2kg増えた。
今年は私の受験で、結局初詣に行けなかった。大輝は「来年は必ず一緒に。」と言って、お守りを買ってきてくれた。
りっくんは…特に何も。
あっという間に、年が明けた。
「入試前最後の模試です。入試本番だと思って全力で解いて下さいね。」
フニャっとした顔で、スパルタなオトヤンが言った。
その模試の結果は、B判定。
A判定を取れなかった事を不安にも思ったが、今更N女子校に進路を変える選択肢は、私にはなかった。
やりきりたい。挑戦したい。
そして、入試当日。
制服を着て、忘れ物がないか、何度も確認した。
筆箱に、暗記カード。定期と、財布と、スマホと、願書と。
カバンを持ち、部屋から出ると、朝ごはんが机に並んでいた。
トンカツ………
「朝から?」
私は席に座りながら、ママに行った。
「受験に、カツ!!」
ママは振り返って、ガッツポーズを見せた。
低血圧でボーッとソファに座っていたりっくんは、のそっと立ち上がり、隣に座った。
「いただきます。」
そう呟き、トンカツソースをかけ、かぶりついた。
そのテンションでも、食べれるんだ。
私も、トンカツソースをかけて一口かぶりついた。
ザクッと衣が音を立てた。
揚げたて…ママ、何時から作ってたんだろう。
「はい、お弁当ね!」
紫色の巾着を渡してくれた。
「ありがとう。」
見上げると、少し疲れた、でも、活き活きとしたママの笑顔があった。
なんだか、ママの顔をちゃんと見たのは、
久しぶりな気がした。
私は、急に恥ずかしくなって、慌ててトンカツに視線を戻した。
「それでは、これで以上になります。」
全ての試験を終え、私は試験会場を出た。
外に出ると、スーッと冷たい風が私を追い越して行った。
この半年、暇さえあれば暗記カードをめくった。
久しぶりに何も考えずに、前を見て歩いている気がする。
空はどんよりと分厚い雲が覆い、雲の隙間から太陽の光が漏れていた。
1年前、大輝が言っていた"解放感"。
このことか。と私は思った。
イヤホンをつけた。
流れてきた曲は、
FUNKY MONKEY BABYSの「大切」だった。
電車に揺られながら、歌詞に耳を傾けた。
すると、自然と朝のママの笑顔が浮かんだ。
りっくんの寝起きの顔。
頑張りましょうと頷いたオトヤンの顔。
大輝の笑顔。真剣にテキストを解くカコの横顔。
アイスを食べながら、ふざけてみせたそうちゃんの顔。
色んな人が、私を大切に思ってくれている。
だから、頑張れた。
ポロッと一粒涙がこぼれ、慌てて指で払った。




