第五章 そうちゃんって、聞き上手だよね。
次の日の朝、私は職員室に向かった。
「失礼します。3年2組の橘高すみれです。
音金先生に用事があってきました。」
どこからか、「どーぞー」と声がした。
オトヤンの机に向かった。
「おはようございます。橘高さん。早いですね。」
クルッと椅子を回して私の方を向いた。
オトヤンはいつものフニャッとした顔をしていた。
「おはようございます。あの、進路なんですけど。
………第一志望をR付属にしたいと思います。
でも、滑り止めでN女子は受けます。」
頷きながら、「良いと思います。では、その方向で。頑張りましょう。」とオトヤンは、頷いた。
放課後、カコと一緒に塾に向かった。
この日の講義は1つだったので、そのあとは2人で自習室に入った。
集中力が切れたカコが背伸びをして、話しかけてきた。
「すみれは塾行かないんだと思ってた。」
「んー。なんか私ってあんまり先を見通す力がないのかも。」
シャーペンを置いた。
「どう言うこと?」カコは笑った。
「なんか、将来こうなりたいとか、無いんだよね。今なにをするべきかって言う目の前の課題は分かるけど、こう先の方?よくわからんなくて。」
「そんなん分かってる中3居るの?」
カコは、片付けを始めた。
時計を見ると8時半。
流石に帰るか。
私もカバンにテキストをしまった。
カバンを持ち、入り口の受付で今にも寝そうになっている塾長に挨拶をした。
塾を出ると、「え、来てるよ?」とカコが指差した。
道を挟んで向かいのコンビニのベンチに大輝が座っていた。
「ほ…本当だ…」
「いや、その顔で行くのはやばいでしょ。」
とカコが私のほっぺをグリグリと回した。
「喧嘩した?」
「んー少し。」
「仲直りしたいんだよ。」
大輝を指差していった。
「別れ話かもよ?」
「自分が受験と言う荒波を経験しといて、この時期に別れ話をしてくる男はダメだよ。サッサと別れてこい。」
カコのこう言うところが、大好きだ。
カコと別れ、私はコンビニに向かった。
イヤホンをして、スマホをいじる大輝の前に立った。
「お!」と驚いた顔で立ち上がり、慌ててイヤホンを外した。
あ、いつもの大輝だ。
ホッとした自分がいた。
「お疲れ…。」
大輝は、少し気まずそうに言った。
私は、フンと鼻を鳴らして大輝を見上げ、ベンチに座った。
大輝も私の横に座った。
「あのですね…」イヤホンを指でいじりなら、大輝が口を開いた。
「なんでしょうか?」
私は腕を組んでみせた。
「すいませんでした!!」
大輝は、パン!っと手を合わせた。
「てっきり来年からは一緒に通学できると思って、楽しみにしてたんだよね。」
そんな事は分かっている。
私も同じだった。
「でも、それだけの理由でせっかく上の学校行けるかもしれないすみれを、N女子に行かせるのは絶対違うし、あの時、応援するってすぐ言えなかった事、めちゃくちゃ後悔した。」
大輝はチラッと私を見て、「ごめん。」と呟いた。
「んーーー。」
私はなんとなくコンビニをのぞいた。
レジの上に、『夏を乗り切れ!バニラフラッペ復活!』と書いてあった。
「あれ。」と私は指差した。
「あれで許してあげる。バニラフラッペ。」
大輝は立ち上がり、「分かった!」と言ってコンビニに駆け込んだ。
その姿がやけにおかしくて、私はこっそりスマホのカメラを大輝に向けた。
カシャ。
レジの前に立って、私のフラッペを買う大輝の後ろ姿。
写真を見て、私は笑った。
これが、私の初めての写真だった。




